かなり良かったが、もう一工夫という感じ~ケネス・ブラナー一座『ロミオとジュリエット』

 ギャリック座でケネス・ブラナー一座の『ロミオとジュリエット』を見てきた。ブラナーとロブ・アッシュフォードが演出、ジュリエット役にリリー・ジェームズ、ロミオ役はフレディ・フォックス(リチャード・マッデンはケガで降板)、マキューシオ役にデレク・ジャコビ、乳母役にミーラ・サイアルである。

 グレーの石の階段や柱を中心にした戦後のイタリアふうなセットで、衣装も黒っぽいスーツなどを用いて1950年代頃のイタリア風の雰囲気を出している。バルコニーの場面はあまり高いところに二階を設置せず、中央階段の上下だけの差にしているのでロミオとジュリエットの距離がかなり近い。全体的に色みの少ないセットで、やや暗く大人っぽい落ち着きのある環境と、解放を求める若者たちの恋の暴走にコントラストをつけている。

 ジュリエット役のリリー・ジェームズは明るく親しみやすい現代っ子という感じでとても良い。パーティの場面ではすっかり恋にのぼせあがり、酒をボトルから一気飲みしてバルコニーで「ああロミオ!!」とか泥酔状態で恋の独り言を暴発させるあたり、けっこうリアリティのある演出だ。ロミオにそれを聞かれて慌ててしまうあたりも可愛らしい。それに比べるとロミオはちょっとフツーの若者という感じで、台詞回しにもちょっと精細を欠いたかなと思う。デレク・ジャコビのような年の俳優がマキューシオを演じるというのは珍しいキャスティングだが、ジャコビがいかにも若い頃からの遊び人といった風体で、年をとっているのに気持ちだけは青年でやたら若者とつるみたがる、可愛いけどちょっと困ったおじちゃまを実に生き生きと演じており、見ていて面白いし「あー、こういうダンディだけど気だけ異常に若い困ったおじちゃま、いるよねー」みたいな感じで妙な現実感がある。とくにマキューシオの台詞の中でも有名な「マブの女王」の台詞はありありと情景が目に浮かぶようなクリアな発声で、小さな妖精が世の中の偉ぶった連中をからかって飛び回る様子を年老いたダンディが語るのを聞くというのはなかなか乙なものだ。ふつうはロレンス修道士が若者の相談を受ける大人という役回りなのだが、このプロダクションのロレンス修道士はかなり若くて魂の師というよりはロミオと年の近い兄貴分みたいな感じだし、ミーラ・サイアルも乳母にしてはけっこう若作りでコミカルなので、年配で若者から頼られているが困ったちゃんでもあるマキューシオのキャラとは差異化がはかられている。

 かなりスピード感のある演出で、薬屋の場面などは全部カットされている(これ、配役表を見ると薬屋の役がある予定だったっぽいので、実際にやってみてカットしたのかも)。あと、ちょっと珍しいなと思うのは、第四幕第四場のカットの仕方で、ピーターと音楽家たちが話すところは普通全部カットされるのに私の記憶ではちょっとだけ残していた。ピーターを女性(キャスリン・ワイルダー)が演じるという演出で、これもちょっと珍しい。

 全体的には面白く見られるプロダクションだったのだが、ただどうもジュリエットに比べてロミオのキャラが弱すぎるところがあったり、マキューシオが上手すぎて若者たちが引き立たないように見えるところがあったり、凄く面白かったと言うにはちょっと不足な気がした。とくに私が納得いかなかったのはジュリエットが服薬する場面の演出で、ジュリエットが決意した後、カーテンの後ろにはいって薬をあおり、そのままカーテンごと倒れて布に包まれた状態で横たわるという演出になっている。この場面ではもっとジュリエットの表情を見せるべきだと思うので、ああいう布を使った演出はちょっと若いキャラクターの力を印象づけるには良くないのではと思った。こういう細かい演出の疑問点がいくつか積み重なっていくぶんの物足りなさを作っていると思う。キャスティングなどには斬新なところもあり、スピード感のあるプロダクションで見て損は無いが、もうひと工夫ほしいところだ。