演技は良いが、普通の演出〜アルメイダ座、レイフ・ファインズ主演『リチャード三世』(演出ネタバレあり)

 アルメイダ座でルパート・グールド演出、レイフ・ファインズ主演の『リチャード三世』を見てきた。衣装なども現代風にモダナイズされ、レスターでの発掘の成果も取り入れた演出である。

 このプロダクションは、現代人がレスターの駐車場を発掘して人骨が出てくるという、最近の時事ネタにそった場面から始まる。この発掘の穴はいちおう埋められて芝居がはじまるのだが、後半ではまた穴が開き、ここに突き落とされて死ぬ人が出るなど、全体的に「墓が口を開けて待っている」という視覚的効果を強調した演出になっている。この発掘でわかったことを反映したのか、リチャードの身体障害はあまり強調されておらず、少々足を引きずっている程度におさえられている。全体的にリアリティを指向した演出で、考古学的な成果を取り入れ、演出も現実感とか自然さといったものを目指していると思う。

 レイフ・ファインズのリチャードはほとんどソシオパスと言えるような倫理に欠けた男で、愛嬌が一切無い。アンを口説くところは、言葉巧みに籠絡するというよりも力で女性を従わせる性的な脅威として演じられている。母親など他の女性に対応する場面でもそこはかとなく冷たい印象を与えるような演出になっている。後半では、エリザベス王妃に娘のエリザベス王女への求婚をとりつがせるため王妃を強姦するという極めてショッキングな演出が採用されており(ここまで暴力的な演出は初めて見た)、暴力を受けて茫然自失の状態にとなったエリザベスがリチャードに無理矢理同意させられるというのは演出としては説得力があるし、またファインズの演技が素晴らしいので、もともと女性を性的に搾取する対象としか見ていなかった男がどんどん蔑視をエスカレートさせ、女性を従わせるために性暴力に走る様子がリアルに描かれている。
 一方でヴァネッサ・レッドグレイヴ演じるマーガレット王妃が対照的な存在として置かれており、呪いと嘆き、つまりは物理的な暴力よりも言葉に訴える女の世界を象徴する人物になっている。最後は死んだリチャードの周りに女性たちが集まってくるような演出になっており、この作品のリチャードは女性や子ども(リチャードは2人の幼い王子を殺した)を虐待する人物であったのだ、という終わり方になっている。ただ、ジェーン・ショアが出てくるセリフをカットしており、さらに最後にエリザベス王女とリッチモンドの結婚を舞台上で見せないので(これはやる演出とやらない演出があると思うが)、全体的に女性があまりにもかわいそうなだけの存在として描かれており、それ以上の掘り下げが無いのは気になった。この女性陣の描き方は少し古いというか、オーソドックスすぎて工夫が無い印象を与える。

 ただ、この暴力的なリアリティ以外についてはそこまで新しいところはない演出だったかなとは思う。とても丁寧で飽きさせない演出だし、ヘイスティングスがやたらiPhoneでチャットしてたりするところなんかは見た目に新しさもあり、キャラにもよくあっていて面白いのだが、この部分以外に視覚的に斬新なところはあんまりなかった。あと、ブレア政権以来、イギリスの『リチャード三世』はバッキンガムをスピンドクター風にするのが流行っていたと思うのだが、この演出のバッキンガムは伝統的な政治家ふうであまりスピンっぽい雰囲気はなく、かなりオーソドックスだったと思う。よくまとまっており、役者たちの演技は素晴らしく、またリアリティという点では見るべきところがあったが、もう少し新しい工夫が欲しいかなという感じだった。