ヴィジュアルに凝った演出〜グローブ座『マクベス』

グローブ座でイクバル・カーン演出の『マクベス』を見てきた。
 
 かなり視覚的に凝った演出で、黒いカーテンやスモークなどを使って非常に不吉で奇妙な雰囲気を醸し出している。わりと現代的なセットや衣装なのだが、かなりゴスい趣味で、魔女の場面では人形の手足がバラバラになるなどの見た目に派手な演出が行われている。ふつうは3人のはずの魔女が4人おり、魔女役の女優が他の役もやったりするので、全てが魔女の支配下に置かれているという印象を与える演出だ。とくに魔女のひとりを演じるナディア・アルビナは片腕の女優なのだが、門番の役も演じており、ドナルド・トランプディスるなどの時事ネタを織り込んだ滑稽な台詞回しでかなり笑わせてくれる。凶事からお笑いまで全部魔女が支配している舞台である。

 主演のマクベス夫妻はよく息が合っている。レイ・フィアロンは非常に武将らしい堂々としたマクベスだし、一方でタラ・フィッツジェラルドは燃えるように熱く情熱的なマクベス夫人で、ちょっと好みはあると思うが非常に私好みのマクベス夫妻だった。ただ、マクベス夫妻に子どもがいる演出なのは非常に謎である…だいたいマクベス夫人としか関わらないのでこの子どもは幻想という設定なのかもしれないが、あんまり劇的にきちんと機能しているとは思えない。で、幻想なのかと思って見ていたら、子どもを殺されたマクダフの「あいつ(マクベス)には子どもがいない」というマクベスの無情をなじる台詞が、なぐさめようとするマルカムに向かって「あなたには子どもがいない」というマルカムのお節介をなじる台詞に変更されており、どういう含みを持たせたいのかちょっとわからなかった。ちなみにマルカムはこの前に「私は女をまだ知らない」と、例の童貞宣言をしているので(ここでは笑いが起こった)、親どころか恋人にすらなったこともないのに一生懸命不器用ながらマクダフをなぐさめようとしているマルカムがなんかちょっと気の毒に見える。

 個人的にはスコットランドの独立などを織り込んだ時事ネタが面白かった。マクダフにスコットランドの王位継承者として兵を挙げてくれと言われたマルカムが「いや、オレは強欲なので…」と嘘をついて断ろうとしたところ、マクダフが「大丈夫、スコットランドには石油があります!」と言うところはとくに笑えた。

 全体的には、見ていて飽きることはなく、結構面白かったが、イマイチ何をやりたいのかわからないところもあったという印象である。