いいところもあり、悪いところもあり〜『スーパー歌舞伎II ワンピース』

 『スーパー歌舞伎II ワンピース』を見てきた。スーパー歌舞伎を見るのは始めてで、そもそも歌舞伎じたいたぶん留学から帰ってきてからは見てないので大変久しぶりだった。なお、私は『ワンピース』は全く読んだことがないしそもそもどんな話かも知らず、また歌舞伎にはあまり詳しくない。

 話は、主人公である海賊麦わら一味のリーダーであるモンキー・D・ルフィ(市川猿之助)がひょんなことから仲間と別れてしまい、女人島アマゾン・リリーに流れ着く。そこの女帝ハンコックに気に入られたルフィだが、義兄弟のエースが監獄に囚われ死刑を待っているという知らせを聞き、監獄島インペルダウンに潜入する。潜入先の島で「おかま道」を体得しているらしい旧友ボン・クレーに再会したり、おねえ言葉の革命軍リーダーで監獄にこっそり基地を作っているイワンコフに命を助けられたりするが、エースは既に監獄から処刑場に運ばれてしまった後だった。エースの処刑を阻止すべく海軍の基地に向かったルフィはそこでエースの父である白ひげの海賊一味と会い、エースを救出しようとするが、白ひげ一味のスクアードが海軍に謀られて白ひげの暗殺を企んだりしたためいろいろうまくいかず、戦闘中に白ひげとエースが死亡してしまう。兄のエースを失ったルフィはショックで寝込んでアマゾン・リリーの人々を心配させるが、立ち直って覇気を習うことにする。

 第一幕は、いいところもなくはないのだがけっこうたるい感じである。話題になった手がのびる演出とかは見た目に面白いが、まあ見所はそんなに多くは無い。いろんな仲間を紹介するのに時間がかかるので、ルフィがいきなり兄貴が捕まったとか慌てはじめるのがやたら突然に思える(あんなに前段が長いんなら、どこか最初のほうでルフィがエースの話をするところを作ったほうが伏線として利いてくるだろう。この話の導入の仕方ではいきなりよくわからん親戚が出てきたみたいだ)。さらに女人国に男が降ってきたとたん女帝がメロメロ…とかイマドキちょっと安易すぎる展開だ。さらにエースが黒ひげと決闘するところはフラッシュを点滅させる照明(ゾートロープみたいな効果が得られる)が使用されているのだが、子どもが見に来るような演目にフラッシュを使うのはあんまり良くないと思うし(たかが照明と思うかもしれないが、ポケモンや『バベル』の時のトラブルみたいに具合悪くなる人が出ることもあるので、照明はエロや暴力よりよっぽど子どもや持病持ちの人への配慮が必要だと思う。子どものお芝居入門になるような演目ではちょっとなぁ…)、さらにこの手法で炎と闇の戦いを表現するのはあまりパッとしないと思った。猿之助がルフィとハンコックの二役で早変わりするのもそんなに効果的とは思えなかったなぁ…

 第二幕は脱獄アクションになるが、ここもいいところといまいちなところが両方ある感じだった。脱獄のくだりとかもやたらに人の紹介が多くてちょとたるみがあったと思うし、また相変わらず毒ガスのところで青いフラッシュ点滅照明が使われていてそこまで効果があがってないのも良くない。ここでニューカマーランドというおかまの方たちの国が出てくるところは、見た目は面白いのだが歌舞伎っていうかドラァグショーみたいで、私はこの手のショーは好きだが正直ここで革命軍として歌舞伎にドラァグレビューが出てくるのは何をしたいのかよくわからなかった(もともとの世界観に通じていないので、「このステレオタイプなおねえの方々が革命軍っていうのはどういうことなんだろう…」と戸惑ってしまった。この世界では同性愛とかトランスジェンダーはどういう位置づけなん?)。ただ、舞台に段を設置して上から水を流す大がかりな演出でルフィの旧友であるおねえのボン・クレー(坂東巳之助)とイナズマ(中村隼人)が戦闘するアクションは大変よく、全く2人とも水も滴る良い男ぶり(ボン・クレーはおかまさんぶりというべきなのだろうか?)というのがふさわしい切れ味だった。

 第三幕は前二幕に比べるとかなりテンポがよかった。ステージどころか客席にまで雪が舞い散るブリザードの演出なんかはかなり大がかりだ。また、エースと赤犬の炎とマグマの対決は色の違う旗を使った振付で、ここは火の演出としてはかなり舞台的にうまく処理していたと思う(実際に火が出る演出も一箇所だけある)。

 全体的に、ちょっと台詞で説明するところが多すぎると感じたり、人の紹介が多すぎたり、たるむところが多かったりするが、視覚的には面白い演出もあったし、とくに最終幕はあまりたるまず面白かったように思う。ただ、こういうものを見慣れていないのでオリジナリティのある演出なのかはよくわからない。役者はけっこう良く、宙に浮くなど激しいアクションをこなす猿之助はもちろん、サンジとイナズマの二役を演じる中村隼人がとにかく色男だし、監禁で疲弊していくエース役の福士誠治もたたずまいに魅力があった。
 
 なお、幕間はどうも撮影してもいいらしく、こんな幕が使われている。

 これは第二幕、ルフィが波乗りで去って行く場面(吊り物で猿之助をぶら下げる)で使われた風船のくじら。