ハリソン・フォードのアップデート~『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』

 『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』を見た。

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 吟遊詩人のエドガン(クリス・パイン)と戦士のホルガ(ミシェル・ロドリゲス)は親友同士で、窃盗で投獄されていたが刑務所の仮釈放審査を利用して逃げ出すことに成功する。2人はかつての盗賊仲間で現在は出世して領主になっている詐欺師のフォージ(ヒュー・グラント)に引き取られているはずのエドガンの娘キーラ(クロエ・コールマン)を探しに行くが、父親ぶりたいフォージはキーラにデタラメを教え、エドガンとキーラを引き裂いてしまう。エドガンは昔の盗賊仲間をまた集め、新しい仲間も加えてキーラを取り戻すための作戦を練るが、実はフォージの領地では大きな陰謀が進行していた。

 もとになっているゲームを知らなくても楽しめる作りで、気軽に見られるコミカルな冒険ものである。魔法の杖をめぐる展開などはちょっと強引すぎると思えるところもあるが、全体的には気持ちよく明るいコミカルなアドベンチャーものだ。この作品で主演をつとめたクリス・パインハリソン・フォードの後継者的なアクションヒーローと各種メディアで言われているのだが、正直、私はインディアナ・ジョーンズ・シリーズよりもだいぶ見やすいと思った…というか、私はどうもインディアナ・ジョーンズ・シリーズの考古学者が主人公のわりに全然保全をちゃんとやらないところとか、オリエンタリズムや性差別的なところがあまり好きになれないのだが、本作は全然そういうところがない(まあ、この映画はそもそも保全は関係ない話だが)。また、エドガンはとくに他の人はできないような武力とか魔力を使えるわけではないのに(基本的な戦闘技術は持っているし、さらにボディ部分を傷めずに小型リュートで他人をぶん殴るという特殊技能は持っているのだが)、いざというときに機転が利く面白い男で、作戦を立案したりチームワークを強化したりする能力があるためみんなからリーダー扱いされているというキャラクターで、そのあたりもハリソン・フォードタイプのヒーローとはだいぶ違う気がする。「特殊技能はないが全体に目配りできる奴がリーダーにふさわしい」というのは『ミラベルと魔法だらけの家』でもあった展開で、これが現代的なヒーロー像なんだろうと思う。

 本作では男性陣はわりと温厚で、女性陣のほうが物理的に暴力をふるうのが得意である。最後に一行に加わる新入りである赤毛ドルイド、ドリック(ソフィア・リリス)はいろいろな動物に変身できるのだが、アウルベアなる巨大動物に変身して大暴れする。ドリックが次々といろんな動物に変身するなんちゃって長回しはけっこう見た目が面白く、視覚的な見どころのひとつである。ホルガは冒頭でセクハラ男をぶちのめすところから全編暴力的に活躍しており、とにかく強い。エドガンとホルガが双方既婚者で全く恋愛関係ではなく、擬似的なきょうだいのような関係として描かれているのも良い。エドガンは亡き妻が忘れられず、ホルガは前夫のマーラミン(ブラッドリー・クーパー)に未練たらたらで、さらにフォージも可愛いキーラの前で父親ぶりたいというひとりよがりな欲に突き動かされており、全編わりと家族関係がポイントになってくる作品である。また、ホルガはけっこう本人もセクシーだし男性の趣味がうるさい女性として描かれており(どうも身長が低い男性が好みらしいという描写がある)、通常だと男性キャラがそういう立場になりそうなのにこの作品では女性がそういう立ち位置で、ちょっと珍しいと思った。