偽装結婚を扱ったシリアスな作品~『私のプリンス・エドワード』(試写、ネタバレ注意)

 試写で⿈綺琳(ノリス・ウォン)監督・脚本『私のプリンス・エドワード』を見てきた。新世代香港映画特集2023にて公開される作品である。

 ヒロインのフォン(鄧麗欣、ステフィー・タン)は香港のプリンス・エドワード地区のウェディングショップで働いており、同じモールで働いている恋人のエドワード(朱栢康、ジュー・パクホン)と一緒に暮らしていた。エドワードがフォンに求婚して2人は婚約するが、実はフォンは10年も前にお金のために偽装結婚をしており、それがきちんと解消されていなかった。フォンは偽装結婚の相手を探し出してなんとか離婚しようとするが…

 偽装結婚すると、いざ偽装ではない結婚をしようと思った時にヤバいことになる…という、当たり前ではあるのだがあまり考えたことがないような問題を扱った作品である(フォン本人もたぶん全然、若くして偽装結婚した時にはそういうことを考えていなかった)。フォンは急いで前の偽装結婚を解消しようとするのだが、その間にエドワードとその母親が自分の気持ちを無視してどんどん結婚式やら結婚後の暮らしやらについて手続きを進めてしまい、フォンは自分は本当にエドワードと結婚したほうが幸せなのだろうか…と思い始める。途中で偽装結婚がバレるのだが、エドワードがフォンの隠し事に怒るのは当たり前…ではあるものの、その後のエドワードの態度があまりにもフォンに対して抑圧的で、そこでだんだんフォンが自分を見つめ直さざるを得なくなるという内容である。偽装結婚したフォンはもちろん若くて世間知らずで軽率だったのだが、その失敗が皮肉にも大人になってからけっこう人生を見直すのに役立ってしまうという様子を丁寧に描いている。最後にあまり派手ではないが、これまでの伏線をきちんと回収する形でフォンが自由を得ようとするところの描写は(ネタバレになるのであまり詳しくは書かないが)なかなか余韻が深い。