香港の知らない姿が見られる楽しいロマコメ~『縁路はるばる』(試写、ネタバレ注意)

 試写で⿈浩然(アモス・ウィー)監督作『縁路はるばる』を見てきた。『私のプリンス・エドワード』同様、新世代香港映画特集2023の公開作である。

 主人公のハウ(岑珈其、カーキ・サム)はIT業界で働く真面目な青年である。短期間に5人の素敵な女性と出会うことになり、私生活の充実をはかるべくデートに邁進するが、どの女性も香港のかなり奥地に住んでいて、会いに行くにも時間がかかる。香港のいろいろな姿を目にしつつ、ハウ自身の心境にも変化が訪れる。

 メガネのハウがとても感じのいいオタク青年で、IT業界で働く人をあまりステレオタイプに陥らずに生き生きと描いているのがいい。ハウは大変優秀なIT業界人であるため、なんでもアプリで管理しているあたりがモダンでコミカルでもあるのだが(テクノロジーを扱った映画という点では『別れる決心』や『サーチ2』とかの仲間と言えるかもしれない)、一方で通常、外国人が観光や仕事で行くことはほとんどないような香港の奥地が出てきて、それぞれの田舎の文化などが描かれているのが面白い。珍しい土地の魅力が味わえるので、ある意味では観光映画だとも言えるのだが、さまざまな土地で暮らす個性的な女性たちとハウのかかわりを描くことで、いろいろ政治的に大変なことを経験している香港の多様性とたくましさを示唆しているように思えた。そしてそうした女性たちとの出会いを通じてハウが成長し、最後は前より少し大人になって、女性と互いを対等に尊重しあえる関係を築けるようになるということで、とてもすっきりした後味のよいロマコメである。