家庭劇っぽいハムレット~『新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~』

 『新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~』を見てきた。太宰治作品を五戸真理枝台本・演出で上演したものである。原作は小説っぽい戯曲というか戯曲っぽい小説というか微妙な作品で、今まで上演されたことはあるらしい。

 手前から奥まで、白い線で区切られた通路…というかなんというかがある特徴的なセットである。衣装もけっこう豪華で、ポローニヤス(池田成志)と娘のオフヰリヤ(嶋崎遥香)は緑のヒラヒラがついた衣装で同じ家族なのをアピールしていたりするのは面白い。ただ、ハムレット木村達成)の背中にやたらと赤いビラビラがついているのは動きにくそうなわりに何の効果を狙っているのかよく分からないので、要らないように思った(このビラビラ以外はハムレットの衣装は良かった)。

 思ったよりかなりモダンな感じの上演で、オフヰリヤはハムレットにわりとしれっと対応する面白い現代女性で、ガーツルード(松下由樹)と腹を割って話し合ってきちんとわかり合ったりしりている。一方、ハムレットは実にうじうじした若者である。このうじうじした若者要素というのは原作のハムレットにも大いにあるのだが、たぶん太宰治が書いているからこのうじうじ要素がものすごくパワーアップしているのだろうと思う(原作のハムレットはあれでもスポーツ青年である。ただ、この作品のハムレットはスポーツしなそうな以外はわりと私のイメージに近かった)。ハムレットがラップをするところは大変面白かった。オッサンたちが若者をけっこう操ろうとしているというところや、戦争に対するなんとなく距離感というか諦念のある表現は、これが1941年に書かれたということがポイントなのかもしれない。ただ、戦争が出てくるわりにはこの作品は非常に家庭劇らしい…というか、家庭の中で悩んでいる若者を中心に、女性同士は年代が違ってもなんとなく連帯できるところがあるが、男性同士は家長の意地みたいなものがあってあんまりわかりあえていないということを描いていると思う。