いくらなんでも拾ってないプロットが…『マーベルズ』(ネタバレあり)

 ニア・ダコスタ監督の新作『マーベルズ』を見てきた。

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 キャプテン・マーベルことキャロル(ブリー・ラーソン)とモニカ(テヨナ・パリス)が宇宙空間であやしい光に接触してしまったことをきっかけに、キャロル、モニカ、ミズ・マーベルことカマラ(イマン・ヴェラーニ)が強くパワーを使うたびに入れ替わってしまうという怪現象が起きるようになる。あやしい光の経緯などを探るうち、クリー人のリーダーであるダー・ベン(ザウイ・アシュトン)がどうもカマラが持っているバングルと対になるバングルを持っていて、それで宇宙に問題が生じているらしいことがわかる。キャロル、モニカ、カマラはフューリー(サミュエル・L・ジャクソン)の支援を受けて事態解決を目指すが…

 全体的にすごくADHDっぽいストーリーテリングというか、ヒロインのひとりであるカマラはADHDという設定があるはずなので、女性3人がめまぐるしく入れ替わってなかなかみんな集中ができなくて困りますみたいなところから始まり、なんとかそれと付き合って解決を…というような展開になる。ヒロイン3人の掛け合いとかは面白いし、最後の猫大爆発みたいなのは、いろいろ理屈はおかしいような気はするがとにかく可愛い。しかしながら全体的に脚本にきちんと拾えてないところが多すぎて、可愛いだけではすまされない感じになっている。

 とりあえず宇宙に住んでいる地球人以外の人たちの扱いがひどすぎる。主にキャロルの不注意のせいでクリー人もスクラルもアラドナの人たちもとんでもない迷惑を被っているのに、そこがいまいちちゃんと拾えていない。クリー人についてはキャロルが支配者たるスプリーム・インテリジェンスをぶっ壊した後に内戦が始まって荒廃してしまったそうで、本作の悪役であるダー・ベンはそれを修復するために他の惑星から資源を盗もうとしている。他の惑星をぶっ壊して大気や水を盗もうとするというのはいくらなんでもひどいが、もともとはキャロルがちゃんとクリーの人たちをフォローしなかったせいだし、ダー・ベンはいろいろ気難しくて思いこみが激しそうな人ではあるものの、クリーの人に支持されている政治的に正統なリーダーではあるらしいので、もうちょっときちんと描写すべきではと思う。最後にキャロルが遅きに失したフォローをするとかではなく、ちゃんと背景などを描くべきだし、そもそもこれは外交努力でなんとかすべき話だろうという気がする。

 スクラルとアラドナはさらに扱いがひどい。外交的にクリアしないといけない問題点があるのを事前に知っていたにもかかわらず、キャロルが勝手に行動したせいでスクラルの人たちは住んでいたところを完全に破壊されてしまい、自分たちも難民であるアスガルドの人たちが地球でスクラルを保護しなければならなくなるという事態になってしまう。外交的失敗で難民キャンプが全壊とかひどすぎるし、苦労ばっかりのアスガルドの難民に別の難民を押しつけるなよと思う(現実でも、元植民地でめちゃくちゃ住宅事情が悪いアイルランドウクライナをはじめとする難民を人口のわりにはいっぱい受け入れてたりするのを考えると、実際にそういうことが地球で起こっているのがなかなかキツいところだが)。スクラルの話は基本的にほとんど拾われずに放置で終わる。

 ちょっとしか出てこないアラドナもずいぶんひどい扱いだ。アラドナは女系の社会らしく、王子様(パク・ソジュン)とキャロルは形式上政略結婚していて、住人は歌にしないと意思疎通ができない。これだけでちょっと面白すぎるのだが、面白いだけでそれ以外のところが全然掘り下げられていない上、最後にダー・ベンに海水を盗まれたまま放置されてしまう。キャロルたちがアラドナを防衛しますと言って来たのに全然そのお約束は果たされていないので、無責任もいいとこだと思う。その後作中でとくに何かこの話が拾われてフォローされることもない。私が王子ならすぐ離婚する。全体的に今作のキャロルはやることなすこと中途半端で責任感に欠けており、これまでのリラックスしたところはありつつやることはやる人というキャラクターとかけ離れていて、性格造形に一貫性がなさすぎると思う。

 そしてこれは全体として、尺が短いのにいろんな話をツッコミすぎたせいでは…と思う。105分しかないのだが、この尺でこういうノリなら、せいぜいカマラの地元のニュージャージーとアラドナくらいしか出さないほうが良かったのではないかと思う。あと、ドラマの『ミズ・マーベル』を見ていないとあんまり面白くないところがあるかもしれないのでそんなにハードルの低い作品ではない(『シークレット・インベージョン』はおそらく無いも同然なので見なくてもたぶんわかる)。