ゴシックメロドラマのパロディ~国際ギルバート・アンド・サリヴァン祭『ラディゴア』(配信)

 国際ギルバート・アンド・サリヴァン祭『ラディゴア』を配信で見た。サヴォイネットパフォーミンググループによる上演である。ミッチェル・ガレット演出、エリック・ピーターソン音楽監督によるものである。

 初めて見たのだが、ゴシックメロドラマのパロディみたいな作品である。やたらエチケットにうるさい村娘ローズ(ローレン・カプルズ)はロビン(アレクサンダー・コンウェイ)に恋していたが、シャイなロビンはなかなか話しかけられない。そこにロビンの義理の兄弟である水兵リチャード(チャズモンド・ピーコック)が帰国してきてローズに一目惚れする。リチャードはローズを射止めるべく、ロビンが実はマーガトロイド準男爵家の跡継ぎリヴェンであり、跡継ぎになりたくなくて身を隠していることをバラしてしまう。マーガトロイド準男爵は先祖が魔女を迫害したせいで、復讐として毎日犯罪を犯さないと苦痛の末に死亡する呪いをかけられていた。消えた兄は死んだと思って準男爵位を受け継いでいたデスパード(マーティン・エヴェラル)は兄に家督を譲り、狂気に陥っていた恋人マーガレット(レイチェル・ミドル)と結婚して地味な暮らしを始める。イヤイヤ家督を継ぐことになったロビンことリヴェンはうまく犯罪を犯すことができず、おじのロデリック(タイラー・パーカー)をはじめとする先祖の霊に怒られて村娘を誘拐するが、誘拐されたのはかつてのロデリックの恋人デイム・ハンナ(ジュリー・C・メイ)であり、ロデリックの霊はハンナとの再会を喜ぶ。一見を案じたリヴェンは、マーガトロイド準男爵にとって犯罪を犯すのをやめるというのは死を選ぶことであるから自殺と同様であり、自殺はそれじたい犯罪なので、自殺という犯罪を犯したマーガトロイド準男爵は厳密に言うと死んでいないため、初代のマーガトロイドはまだ生きていることになるから自分たちはマーガトロイド準男爵ではないということを主張する。これが受け入れられ、リヴェンはローズと結ばれる。リチャードも他の彼女とくっつき、ハンナとロデリックも幸せになって終わりである。

  ゴシックホラーをバカバカしくパロったみたいな展開は楽しいし、部屋にかかった肖像画から霊が抜け出してくるところなども面白いが、けっこうオチがわかりづらく、他のサヴォイオペラに比べるとちょっと強引な感じはすると思う。まあサヴォイオペラの展開はどれもメチャクチャなのだが、メチャクチャなりに『ペンザンスの海賊』とかは規則の厳密性をからかうジョークがわかりやすいと思うのだが、この作品はそのへんがあまり練られていない気がする。面白いところはいろいろあるが、音楽的にも展開の点でももっとよく上演される作品に比べると劣るかなと思った。