ブラッドリー・クーパーはミュージカル映画を撮りたいんだよね?~『マエストロ:その音楽と愛と』(配信)

 ブラッドリー・クーパー監督・主演の新作『マエストロ:その音楽と愛と』をNetflix配信で見た。指揮者レナード・バーンスタインと妻で女優のフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタインの生涯を描いた伝記映画である。

 レナードを演じるクーパーの付け鼻とかがステレオタイプなメイクだということで予告段階で問題になったりしていた…のだが、映画を見るとむしろ妻フェリシアを演じるキャリー・マリガンの演技を見るためみたいな映画である。レナードはバイセクシュアルなのだが、2人の結婚生活で問題になるのはレナードがバイセクシュアルだということではなく、レナードが浮気性だということで、レナードが男性と付き合っていたことじたいはいたってフラットに描かれている。フェリシアが悩んでいるのも夫が男性と付き合っていることではなく、夫が他の相手と付き合って家庭生活をないがしろにしていることである。このフェリシアの悩みぶりを演じるマリガンの演技が大変奥行きがあり、怒ったりイラついたりあまり機嫌の良いところは少ないのだがそれでもとても人間味がある。

 全体的に音楽の比重はけっこう大きく、序盤の『オン・ザ・タウン』のもとになったバレエの準備がファンタジー的なダンスに変わるくだりは非常にちゃんとしたミュージカル的な場面になっている。この場面では実際にクーパーがキラキラした顔で踊る水兵に扮しており、実はクーパーはミュージカル映画を撮りたいのでは…と思ってしまった。終盤のマーラーのおかげで夫婦仲が改善するところはちょっと強引…というか、そんなことでうまくいくわけないのにフェリシアが音楽の力で屈してしまうところがある意味で極めて罪作りだと思った。