飛行機で『ラヴ、サイモン』を見た。
アトランタに住む高校生サイモン(ニック・ロビンソン)は優しい両親と良い友達に恵まれ、楽しく高校生活を送っている。ただ、ゲイであることを誰にもカムアウトしていない。ひょんなことから同じ高校に通っているらしい謎のゲイの少年「ブルー」とメールのやりとりをするようになるが、そのことが同級生のマーティン(ローガン・ミラー)にバレて…
とにかく可愛らしくて笑えて心あたたまる高校映画だ。SNSやウェブサイトをうまく使った現代的な展開なのだが、ありがちな描写を避けてリアルな感じを出しつつ、あまりつらい話にはなりすぎないようにしてる。サイモンが住んでいる環境はかなり子供のことを第一に考えてるミドルクラスの人たちが多く、サイモンの友達も半分は非白人で、既にカムアウトしている子も学校におり、政治的にも比較的リベラルそうだ。しかしながらそれでもいじめがないわけではないし、何しろ高校生ということでまだ子供っぽいところがあり、追い詰められて考えなしにひどいことをしてしまったりすることもある。そういうとても現代的な状況でサイモンがどういうふうに自分のアイデンティティと向き合うのかを丁寧に描いている。
サイモンを演じるロビンソンをはじめとして役者陣の演技が大変生き生きしていて、途中でサイモンがひどい目にあわされ、どん底まで落ち込むところは本気で心配になるくらいだ。『ブリグズビー・ベア』ではスペンサー役で大活躍だったジョージ・レンデボーグ・Jrがサイモンの親友ニックの役を演じていて、今回もけっこういい役どころだった。ブラム役のキーナン・ロンズデールはカムアウトしているバイセクシュアルの役者さんなのだが、ブラムがハロウィーンに「トランプが自分の仕事を無茶苦茶にするのではと心配している引退後のオバマ」の仮装で出てくるとこはけっこう笑った。ちょっと微妙だが、ベクデル・テストはサイモンのお母さんとニックの幼馴染みリアの会話でパスすると思う。
スクールカーストの描き方が2010年くらいまでの映画とは全然違うという点では、ポスト『グリー』的な映画と言えると思う。サッカーをやってるニックと、ミュージカルをやってるサイモンやアビーが同じグループで、ミュージカルをやってる中でも気が合う気が合わないでビミョーな違いがあるとか、そういったところの描写はけっこう細やかだ。サイモンは昔のレコードが好きとかいう枯れた趣味の子(キンクス「ウォータールー・サンセット」が素晴らしい使われ方をしてる)なのだが、だからといってバカにされてる気配はなく、むしろちょっとお洒落っぽい感じになっている。一方で正統派の学園映画っぽいところもたくさんあり、『ミーン・ガールズ』とか『クルーレス』みたいな映画が好きな人は絶対面白いと思う。日本公開がまだ決まってないようなのだが、是非日本でも見られるようにしてほしい。