この映画は凄く面白いが、面白いからこそ怖い〜『ザ・ディザスター・アーティスト』

 ジェームズ・フランコ監督作『ザ・ディザスター・アーティスト』を飛行機内で見た。フランコは最近、自分が教えている生徒などにセクハラをしたということでMeTooの渦中にいる。

 これは史上最もひどい映画として有名な実在するカルト作『ザ・ルーム』(2003)撮影の内幕を撮ったバックステージものである。舞台は2000年代初頭のカリフォルニア。役者志望のグレッグ(デイヴ・フランコ)は、訛りがひどいがすごく存在感のある謎の男トミー(ジェームズ・フランコ)と親しくなる。なぜか大金を持っているトミーと一緒にロサンゼルスに引っ越し、役者として求職活動をするがうまくいかない。それならば自分たちで映画を作ろうということで、トミーが脚本を書き、監督・主演で『ザ・ルーム』という映画を作ることにするが、まったく映画の撮り方なんか知らない素人の集まりなので撮影はうまく進まず…

 とにかく笑えて映画への愛情が伝わってくる作品で、大変よくできている。トミーはどこで生まれたのか、何歳か、なんで金持ちなのかもわからない不思議な男なのだが、ミョーなカリスマがあり、グレッグも周りの人たちもなんとなくのせられてしまうところがある。撮影に携わっている役者たちはいかにもヘタクソそうだが、みんな心から映画が好きで頑張っており、この映画は何を表現したいのかとかについて真面目に考えている(キャロラインとジュリエットが場面の意味について議論するところでベクデル・テストはパスする)。トミーは唯一の友人であるグレッグに素っ頓狂な執着心を抱いていて、セットではかなりの暴君なのだが、グレッグはそんなトミーをなぜか助けずにはいられないし、ケンカしても結局また一緒につるむようになってしまう。素人が集まって映像作品を作ろうとする話で、映画への情熱をあたたかく描いているという点では『ブリグズビー・ベア』に似ているが、『ブリグズビー・ベア』が光だとすれば『ザ・ディザスター・アーティスト』は陰だ。ジェームズはトミーより協働が得意でセンスもそんなに悪くはない映画作家だし、できた映画がもともとキッチュを狙った作りでその気で楽しめば面白く見られそうな『ブリグズビー・ベア』とは違って、『ザ・ルーム』は本当にひどくてひどすぎるからおかしいという作品だ。

 ただ、この『ザ・ディザスター・アーティスト』の面白さっていうのは、フランコがハラスメント気味の映画作家だってことに深い関係があるのかも…と思うとけっこう怖い。セットで不機嫌になって威張り散らし、親しいグレッグに執着し、セックスシーンをメチャクチャにする独裁者トミーと、それでもなんとなくトミーについていっちゃうクルーやキャストという展開は、実はフランコの芸術活動とそう隔たってないのかも…っていうような気がしてくるからだ。かなりの問題児であるトミーがあたたかく許される展開は感動的なところがあるが、これはフランコ自身が自分のハラスメント気味な芸術活動を許してもらいたいからなのかも…とか深読みしてしまう。