下剋上とはいえ、けっこうキツい話でもある~『中村仲蔵~歌舞伎王国 下剋上異聞~』(配信)

 源孝志作、蓬莱竜太演出『中村仲蔵~歌舞伎王国 下剋上異聞~』を配信で見た。

www.youtube.com

 有名な歌舞伎役者で、歌舞伎一門の出身ではないものの出世して日本の舞台芸術史に名をとどろかせることになった初代中村仲蔵藤原竜也)の伝記ものである。伝記とはいえ現代風な作りで、使っている言葉などもカタカナ語があったりする。有名な『仮名手本忠臣蔵』の逸話(中村仲蔵が革新的な役作りで演出を変更してその後の演出が変わった)の前には、あまり『忠臣蔵』に詳しくない現代のお客のための解説タイムもある。このため、全く予備知識がなくても楽しく見ることができる。

 最後は仲蔵が大成して役者仲間からも尊敬されるようになるサクセスストーリーなのだが、全体的に梨園出身ではない役者に対する差別・偏見が強調して描かれており、なかなかキツいところも多い話である。とくに最初でいきなり仲蔵が八百蔵(市原隼人)から悪質な性暴力を受け、それでも周りからは生え抜きでない仲蔵が歌舞伎界で身を立てるためには必要…みたいなことを言われてしまう場面はショッキングだ。しかも演じているのが藤原竜也で、いつもながらエモーショナルにへこんでいるので実に可哀想である。さらにその後も暴力的ないじめを受け続ける…のだが、もそもそ養母に虐待みたいな英才教育を受けていたのもあって仲蔵はなかなかへこたれないたちで、冷遇されて自殺を考えるような状況に追い込まれても、発想と工夫と演技力で勝負してひっくり返し続ける。見ていると観客は仲蔵を応援したくなる…ものの、性暴力やいじめが乗り越えるべき障壁みたいになってしまっているのは、たとえ今の歌舞伎界のハラスメント体質を暗に批判しているとしてもちょっと暴力の扱いが軽くないかなぁ…という気はする。仲蔵は成功したからいいが、たぶんいじめられてつぶれた役者もたくさんいたのだろうと思ってしまう。