住宅問題を扱ったよくできた真面目な映画~『バティモン5 望まれざる者』(試写)

 ラジ・リ監督の新作『バティモン5 望まれざる者』を試写で見た。

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 パリ郊外のバティモン5にある老朽化した集合住宅が舞台である。臨時で地域行政のトップになったピエール(アレクシス・マネンティ)は治安改善と住宅改革を推進しようとしていた。一方で地域コミュニティの支援スタッフであるアビー(アンタ・ディアウ)は市政の方向性とは違うやり方でバティモン5の改革を行おうとしていた。

 私のフランス行政に関する知識が大変乏しいこともあり、映画なのでどの程度実際の手続きに基づいているのかはよくわからないところもあったのだが、この映画に出てくるパリの地域行政のあり方はけっこう日本と違う…というか、地域のトップの選出方法とか、住宅に関する施策の進め方とかについてはちょっとビックリするようなところもあった。『落下の解剖学』を見た時も、フランスの法廷は日本やイギリスとはずいぶん違うんだな…と思ったが、法制度だけでなく行政にもたぶん大きな差異があるのだと思われる。そして少なくともこの映画を見る限りでは、そういうフランスの中央集権的なシステムは地域に寄り添って働いているアビーのような地元のスタッフの方向性とは非常に食い合わせが悪く、地域住民の意思を無視していろんなことを進めるのが可能であるように見える。このあたりの問題に非常に鋭く切り込んだ作品である。