1960年代のダブリンを舞台にした人間ドラマ~A Man of No Importance

 ダブリンのオスカー・ワイルド祭の一環として上映されたA Man of No Importance (1994) を見てきた。フェスの一部ということで、上映前に脚本家で元ホースリップスのメンバーでもあるバリー・デヴリンの舞台挨拶もあった。

 舞台は1963年のダブリンである。バスの車掌アルフィ(アルバート・フィニー)は大のオスカー・ワイルド好きで、バスの馴染み客の前では詩を暗唱し、『サロメ』のアマチュア上演も企画している。アルフィは若いバスの運転手であるロビー(ルーファス・シーウェル)にほのかな恋心を描き、『サロメ』にヨカナーン役で出てほしいと思っているがロビーはあまり関心がない。ロビーは新しくバスの馴染み客になったアデル(タラ・フィッツジェラルド)をサロメ役に起用するが…

 中年のクローゼットなゲイ男性を描いた人間ドラマである。最後はアルフィがかなり悪質なホモフォビアのターゲットになる悲惨な展開があるものの、バスの馴染み客やロビーはアルフィの人格を見てサポートしてくれる…という、哀しいところはあるが心温まるところもある終わり方になっている。けっこう笑うところもあり、地味な作品だが後味は悪くない。上映前にデヴリンが言っていたように、アルバート・フィニーのダブリンアクセントがかなりあやしいのをはじめとしていくつかゆるいところなどはあるのだが、若い頃のルーファス・シーウェルやタラ・フィッツジェラルドが輝くばかりに美しい一方、今は亡きマイケル・ガンボンがかなりイヤミな役を演じており、脇役陣の充実も含めて悪くない映画である。ゲイクラシックとして舞台ミュージカル化もされているそうで、是非舞台も見てみたいと思った。