プロペラ『ヴェニスの商人』

 病み上がりの体にいろんなもの(麻薬ではない。トマトジュースとかコーヒーとか)を打ってプロペラの『ヴェニスの商人』を見てきた。


 とりあえず一番後ろの席でひどく見づらかった(照明がヘンにあたって人の顔もよく見えないような位置)のが良くなかったのだが、どうも今回の『ヴェニスの商人』はあまり面白くなかったように思う。役者の芝居はあいかわらず悪くないのだが、やたら暴力的な演出で、シャイロックは人種差別にブチ切れてテロでも始めた人みたいだし(あまりいい言い方じゃないが)、バッサーニオもアントニオもあまり紳士らしい感じじゃないし(バッサーニオはもともとダメなヤツだが)、最後のロレンゾとジェシカのふざけあいからポーシャとバッサーニオ、メリッサとグラシアーノのケンカに流れる場面はまるで戦争勃発みたいに険悪だった(たとえて言えばこんな感じ)。そりゃあ『ヴェニスの商人』はあまり穏やかなお芝居ではないのだが、これじゃあ暴力的すぎて見ていて救いがなさすぎるし、あと血が出すぎると食傷するっていうところもある。宗教間の闘争とかそういうものを見せたいならもっといろいろな手法があると思うので(前に見たラヴデイ・イングラムの演出とかは、抑えてるけどちゃんとユダヤ教徒キリスト教徒の仲違いみたいなものを見せてた気がする)、今回の生々しい暴力表現が成功してたかっていうとちょっとこれはあまり舞台上で効果があがっているとは言えなかったように思う。


 全体として、今回プロペラが持ってきた二作は役者もちゃんとしているし演出も気合いは入っているので見る価値はあると思うのだが、シェイクスピア喜劇特有のお客さんをわくわくさせる力みたいなものはそんなになかったような気がする…『夏の夜の夢』は割合良かったと思うんだけど、たぶんあまりにも真面目に芝居しすぎているのが問題なんじゃないかと思う、シェイクスピア喜劇っていうのは基本的に「真面目に考えるには重要すぎる」世界、ちょっと間違ったらバカになりそうな世界を描いていると思うし、それを異性装でやるっていうことは「これは虚構だ!」ということに自覚的になって、ある意味では徹底的に不真面目になって芝居する必要があるんじゃないかっていう気もするのだが、『プロペラ』の公演はすごい真面目でそういう不真面目さが見られない気がした。全くの私見だが、もっとなめた態度で演出・演技したほうが面白くなったんじゃないだろうか…