『蟹工船』レビュー

 『蟹工船』を見てきた。

 この映画、一応見に行くつもりだったんだけど、あまり評判が良くないのと『天地人』の松田龍平(伊達政宗役)を見たせいでなんかあまり行く気がなくなったのでまだ見てなかったのだが、明日終わっちゃうということで見てきた。


 …で、どれほどひどいかと思ったら、別にそこまでひどくなくてどーってことない普通の映画…だった気がする。たしかにそこまで面白くはないけど、あれってチャップリンの『モダンタイムス』とかに倣ったブラックユーモア映画を目指してるんだよね…?(←ブラックユーモア映画じゃないんなら、今時協和語をしゃべるヘンな中国人とか、集団自殺ごっこなんていうモチーフが出てくるわけないと思う。)それなら多少ギャグが滑ってるのと、後半ブラックユーモア風味がなくなって全体的に統一がとれない感じになったのは良くないと思うけど、かなり映画化が難しいであろう特殊な題材をとりあげた近代文学の古典を換骨奪胎した作品としては結構頑張ってる気がする。

 ただ、最後がなんか微妙に自己責任論モードになってどんどん真面目になるので、ちょっとこのへんはなぁ…という気がした。この自己責任論は、人をバカにして切り捨てるための自己責任論(「大事な税金を、働く能力があるのに怠けている連中に払う気はない」)じゃなくて、親しい人にわざときついことを言って励ます際に使用する自己責任論(「あんなダメ亭主と一緒にいるなんてあんたバカなんじゃないの?あんたがここで頑張んないと、子供たちの学費まで使い込まれるよ」)なので、見ていて反感は起きないんだけど、なんとなく「ちょっと雰囲気が真面目になりすぎじゃない?」みたいな感じがした。どうせなら最初っから最後まで、映像的仕掛けを駆使しておそろしくぶっ飛んだブラックコメディにしたほうが良かったんじゃないか…という気がする。


 あと、あまり良くないなと思ったのは美術にそこまでオリジナリティが感じられないことである。時代ものらしくなく現代っぽい美術にしているというからその点は期待できるかと思ったのだが、割合普通の船と普通の工場で、設定をいじってるわりには見た目のインパクトがないなと思った。もっとSFっぽく、例えばメタリックギンギラギンの工場に病院の手術室みたいなタコ部屋(モデルになった船は元病院船だしね)、悪役の浅川監督は不具合を起こしたル・コルビュジェみたいな狂ったデザインの船室に住んでる(浅川役の西島秀俊は頑張ってたので)とかでも結構面白かったんじゃと思うのだが…