70すぎのボニー&クライド『人生に乾杯!』(ネタバレあり)

 シネスイッチでハンガリーのじいさんばあさん映画『人生に乾杯!』を見てきた。なんかすごく地味な話なのかと思っていたのだが、コメディタッチでひねりもきいていてびっくりするほど面白かった。


 とりあえずこのお話は50年代に一目ぼれで出会って結婚した老夫婦のエミル(81歳)とへディ(70歳)が主人公である。30年前に息子を事故で亡くして以来、二人きりでケンカばかりして暮らしているが、内心お互いのことをめちゃめちゃ気遣っている。ところが東ヨーロッパがえらく不景気なせいで二人あわせて年金が4万フォリントしかもらえず、暮らしていけなくなって家賃滞納。へディは出会いのきっかけになったイヤリングを売り払い、夫の本や愛車(旧ソ連共産党幹部用の特注車、チャイカ)が差し押さえられないようにしてやる。これを見たエミルは一念発起して、インシュリンが手放せないへディに楽をさせてやりたいと銀行強盗を決行。二人はハンガリー中をチャイカで逃げまくって警察に追われる身に…という作品である。



 最初はわけのわかんないストリップショー(←この場面、はっきり言っていらんと思う)の場面から始まって、刑事が出てきたりして展開がずいぶんもたついたので何だこりゃと思ったのだが、途中からどんどんユーモラスになって最後はニンマリ…という感じで、余韻を残した終わり方も決まってる(えーっ、ラストを言いたくてたまらないのだが、いくらこのブログはネタバレブログとは言えこのラストを人に言うのはちょっと気がひけるな…他の人にも是非見てほしい映画だし)。すんごい遠まわしに言うと、『バニシング・ポイント』とか『ボニー&クライド』とか『グラン・トリノ』とか『テルマ&ルイーズ』とか『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』とか『白いドレスの女』が好きな人には超お勧めだ(ただしこの作品はあくまでもコメディである)。老夫婦も芸達者だし、銀行強盗をやってる二人が貧乏暮しにあえいでいる年金暮らしの老人たちから大人気を博すあたり、定石だけど面白おかしく描いてある。


 ただ、刑事を最初からあんなにちゃんと出す必要はあったのかな…と思う。序盤もたつくのは老夫婦を追う警察内部の人間関係を描いているせいで、こういうとこは『テルマ&ルイーズ』とかに倣ったんだと思うんだけど、かなり冗長。それに女性刑事が役立たずの部下と結局くっついちゃうところもあまり説得力ないと思う。


 ちなみにこの映画にはどうもハンガリー人ならわかるのでは…というネタが数か所あるみたいなのだが、わたしはどういう意味なのかよくわからなかった。まず、最初の場面で老夫婦が出会ったきっかけをフラッシュバックみたいにして描くのだが、50年代に若き日のエミルが警察の一員として家宅捜索に入ったところ、へディが家の屋根裏にたった一人で隠れていて、かくまってあげたことをきっかけに二人は恋に落ちるの…のだが、たった一人で若い女性が家の屋根裏に隠れていたという状況がよくわからない。へディ(元看護師らしい)が反政府活動をやってたってこと?ハンガリー動乱とかに関係ある?

 それから、エミルが強盗に入った先が昔の知人で、エミルは相手に「わしに不利な証言をしただろう!」って怒るのだが、ここもちょっと詳細がよくわからなかった。エミルは30年以上共産党幹部の運転手をしていて車までもらったらしいのだが、何か不利な証言をされて辞職したとかなら車とかもらえないはずでは…?
 
 あと、エミルが乗っているチャイカ(「かもめ」という意味。愛称ウインドバード)はデカくて丈夫そうな車なのだが、チャイカと警察の車が追っかけっこしていて、チャイカが鉱山の石と砂だらけの急な坂を登りきれるのに警察の車(タクシーに偽装)は登れないという場面がある。これ、昔のソ連の車は馬力勝負だったけど現代の車は軽量すぎて坂とかが不得手だってことか?車好きの人はこのへん意味わかるんだろうか。




 ちなみにこの映画もこの間の『キャデラック・レコード』同様、字幕があまりよくなかったと思う。もちろん私は全くハンガリー語がわからないのだが、ハンガリーマジャール人って姓名が「苗字―個人名」の順なんだけど、セリフの中やアルファベットの表示では「キシュ・エミル」とか言ってるのに字幕が「エミル・キシュ」と逆になっているところがあったように思う(あまり自信ないのだが、なんか耳で聞いていて違和感あったのでたぶんそうだと思う)。それから通貨について「フォリント」と「フォリンツ」という表記が混在しているとこもあったので、なんか字幕をちゃんとチェックしてないんじゃないかという気がした。