ナショナルポートレートギャラリー「ゲイ・アイコン展」「ビートルズからボウイまで〜60年代展」


 今日はナショナルポートレートギャラリーで「ゲイ・アイコン展」と「ビートルズからボウイまで〜60年代展」を見てきた。

ギャラリー外観。


 ゲイ・アイコン展のポスター。k.d.ラングの写真が使われているが、超かっこいい。


 「ビートルズからボウイまで」展のポスター。



 ポートレートギャラリーは入場無料なのだが、このふたつの特設展は有料で、学生でも合併チケットで12ポンドもかかってしまった。


 で、まずゲイ・アイコン展に行ったのだが、これは「ゲイ・アイコン(あるいはロールモデル)と見なされている人々自身による自分の好きなアイコン写真セレクション」を中心にした展示で、いわゆる一般的なゲイ・アイコンであるダイアナ妃とかヴァージニア・ウルフとかマルチナ・ナブラチロワなんかにまざって、通常はゲイ・アイコンと見なされないような人の写真が展示されているのがとても変化に富んでいて飽きない構成になっていると思った。セレクションをしているのはイアン・マッケランとかエルトン・ジョン、ビリー・ジーン・キングみたいな著名人が多いのだが、全然知らない人もいた。エルトン・ジョンジョン・レノンを選んでいたし(ビートルズがゲイ・アイコンというのはよくわかるのだが)、ネルソン・マンデラとか、過激派として有名なクィアアクティビストのピーター・タッチェル(ジンバブエの独裁者であるロバート・ムガベを逮捕しようとした人)とか、なかなかに政治的でおもしろいセレクションもあった。

 で、ポスターに使われているのは上に貼ったk.d.ラングのドラァグ・キング写真と、ポール・モリッシーが撮ったジョーダレッサンドロの写真で、まあこの二つが展示の中でもいかにも「ゲイ・アイコン」らしいものかなと思うのだが、誰が見ても美しいと思うであろうジョーダレッサンドロの写真の脇に、あまりスターらしいオーラのないどこやらのおっさんみたいなエルトン・ジョンのにこやかな写真が飾ってあるのがなんだかよくわからないおもしろさを醸し出していた。イギリス人のブラックユーモアなのかね…しかし、エルトン・ジョンは年をとってからはどうもスーパースターというよりは近所の愉快なおっさんみたいな感じになってしまったと思うのだが、一方でやっぱり写真が展示されていたイアン・マッケランはすっかりじいさんになってもいかにも舞台で鍛えてきましたふうな色気があって、役者(とくにシェイクスピア役者)はバケモノだなと思った。



 次に60年代展に行ったのだが、こちらのほうが規模が大きい展示で、非常に貴重と思われる写真もいっぱいあった。ビートルズをはじめとする60年代のイギリスのポップスを支えた主なミュージシャンを、1960年にとられたものから1969年にとられたものへというふうに時代の変化がわかるように展示してある。1961年の段階では田舎のめんこいにいちゃんたち風だったビートルズが、1964には既に神々しいカッコよさを漂わせているのに驚いた。あと、在りし日のブライアン・ジョーンズがなんかすごい。ストーンズのメンバーとパティ・ボイド(後にジョージ・ハリスン及びクラプトンと結婚。当時は大人気のモデルだった)を一緒に撮った写真があって、ストーンズが紳士らしく(?)パティを囲むっていう構図になっているのだが、脇にしゃがんでいるブライアン・ジョーンズが、真ん中に立っているパティの白い左手をそれとなくつかんでいてなんだかえらくセクシーであった。あと、フランソワーズ・アルディストーンズが撮った写真もあったのだが、ミック・ジャガーとアルディが二人で撮った写真はミックがアルディの肩に手をかけているという、まあミック・ジャガーな写真…なんだけど、ブライアンと撮った写真ではアルディだけが立ってて座っているブライアンの頭を手で押さえているという構図になっていた。これが何を暗示しているかは誰でもわかりそうなもんである(何を暗示しているかはひみつである)。なんかブライアン・ジョーンズがどうしてストーンズにいられなくなったのかなんとなくわかるような気がしてきた。ロキシー・ミュージックの例でもわかるように、女装の女たらしは1バンド1人で十分なのである(??)。


 …で、男性ロックミュージシャンがあからさまにえらくセクシーなのとは対照的に、60年代の女性ミュージシャンたちはみんな一見中性的ではつらつとしていて、セクシーというよりは可愛らしいとか美しいと言ったほうがいいような感じである。女性アーティストの写真もいっぱいあるのだが、みんなすらっとしているけどやせすぎてはおらず、短いスカートをはいて活発に動き回っている。モノクロ写真がほとんどなのだが、たぶんこの頃のファッションはたいそうカラフルであったと思われ、そういう印象を補強するためか、展示場のすみっこには当時のオシャレな女性の衣服も飾ってあった。なんか女性アーティストばかりが並んだ"Million Pound Poppets"とかいうタイトルの写真があったのだが、当時こういう女性シンガーたちは100万ポンドを超える収益を軽くたたき出していたらしい。60年代イギリスのガールズポップって同時代の男性のロックミュージシャンに比べるとなかなか注目されることが少ないと思うのだが、もっと聴かれてもいいと思う。
 …ちなみにマリアンヌ・フェイスフルの写真もあったのだが、この人ってデビュー当時は「天使の歌声」で売ってたんだと思うんだけど、写真はなんか60年代初頭からド迫力だった。一人で酒場のバーにつっぷしている写真があったりとか、エイミー・ワインハイスの原型みたい。


 しかし、ビートルズやマリアンヌ・フェイスフルみたいに今でも有名なミュージシャンの写真がいっぱいある一方で、今では全然名前も知られなくなっているアーティストもいっぱいいた。全然知らなかったのだが、デッド・オア・アライヴのあの独眼竜ファッションの元はたぶんジョニー・キッド&パイレーツっていうバンドなんだな…ジョニー・キッドという人が眼帯してステージに立ってる写真があって、これはきっとピート・バーンズがまねしたんだろうという気がした。


ジョニー・キッド&パイレーツ、"I Know"


デッド・オア・アライヴ、"Love Come Back to Me"


 どっちの展覧会も良かったのでカタログほしかったんだけど、お金がないのでやめて、常設展示へ。長くなったので、常設展示の話は明日にまわす。