リアルな話だがちょっと細かいところが許せない〜『イエスタデイ』(ネタバレあり)

 60年代オスロビートルズに憧れる少年たちを描いた映画『イエスタデイ』を見た。

 主要登場人物である4人の少年たちにはそれぞれ憧れているビートルズのメンバーがおり、スネイファスというバンドを組んでいる。中心的な主人公はキム(ポール担当)で、他に食料品店の息子でイケてるグンナー(ジョン担当)、船員の息子セブ(ジョージ担当)、吃音症に悩むドラマーのオラ(リンゴ担当)がいる。キムの恋愛が一番大きな要素で、音楽活動はけっこう脇に置かれている感じというか、この4人は下手クソであまり練習も真面目にしていないバンドなのでそのへんリアルさがある。

 全員めちゃめちゃ真面目に音楽に打ち込む『シング・ストリート』に比べると、バンドが下手クソでデビューライヴは電気トラブルで大失敗、ほとんどまともに演奏もできないスネイファスはかなりリアルだし、生き生きとした4人の少年たちを見ているのは面白いのだが、どうも『シング・ストリート』に比べると勢いの無さみたいなものを感じてしまう。『シング・ストリート』もいろいろ強引なところはある話だが、センスと勢いでカバーしてるみたいなところがあったんだけど、『イエスタデイ』はどっちかというとだいたいリアルなのにたまに詰めが甘いのでアラが目立つという感じだ。一番どうかと思ったのはキムの恋愛模様で、いきなり会ったばかりのニーナがキムにキスしてくるあたりの展開が強引すぎて意味がわからなかった。他のところはかなりリアルなのにここは高校生男子の妄想みたいな感じの展開で、浮いて見える。
 あと、個人的に音楽の使い方がかなりダサいと思う。ビートルズの使用料金が高いからかもしれないが、ビートルズの原曲が流れる箇所はそんなに多くなく、あまりパッとしないカバーが使われたり、他の曲が使われたりしているところが多い。さらにキムが憧れのセシリアの心を取り戻そうとして作曲するのがなぜかビートルズふうの60年代ロックンロールじゃなくてブルース(っていうか、なんかパッとしない何か)で、これはちょっと許せなかった。これ、結局ビートルズは恋人に心を伝えるため使える曲としては機能しませんでした…みたいな展開に見えるので、ビートルズファンとしてはけっこうひどいと思う。ここでレナード・コーエン(私はコーエンの音楽が個人的に好きじゃ無いので偏見があるのだろうが)なんか聞いてるセシリアに、下手クソでもビートルズっぽい曲で思いを伝えて自分が一生懸命なことをアピールしてこそ盛り上がるんじゃないのか?!

 なお、さらっとしか描かれていなかったが、セシリアの幼馴染みコーレがどうもゲイで、これを隠すためセシリアと付き合っているふりをしたがるところがシビアだった。ここ、もうちょっとはっきり描いてブライアン・エプスタインと重ねたりしたらもっと良かったのでは?