『シング・ア・ソング! 笑顔を咲かす歌声』を見た。ドキュメンタリー番組The Choirをもとに大きく脚色した映画で、多少実話に基づいている。『フル・モンティ』の監督であるピーター・カッタネオ監督作である。
2009年、英国のフリットクロフト駐屯地にいた兵士たちがアフガニスタンに派遣されることになる。駐屯地内には兵士のパートナーや子どもが住んでおり、配偶者がいなくなって残された妻たちは心細さを解消するためのアクティヴィティを考えることにする。特務曹長の妻リンダ(シャロン・ホーガン)がアクティヴィティ責任者なのだがあまりいい考えが思いつかず、大佐の妻ケイト(クリスティン・スコット・トーマス)がうるさく口をつっこんでくる。いろいろ紆余曲折があって、経験者もいないのに合唱をやることにするが、ふとしたことから合唱が軍の上層部の目(というか耳)にとまって、ロイヤル・アルバート・ホールで行われる戦没者祈念式典に出ることになってしまう。
まず、あまり知る機会のない軍人の妻たちの暮らしぶりがたぶんけっこうリアルな感じで描かれているのが珍しい。シンシア・エンローの研究書などでなんとなくは聞いたことがあったのだが、夫の階級で妻の立場が決まるとか(夫たちが出征した時のアクティヴィティ担当は特務曹長の妻の責任で行うらしい)、駐屯地内にお店やらなんやらいろんな施設があってけっこうそこで生活が完結するとか、もの珍しい話がたくさん出てくる。このあたりはいかにも保守的で閉鎖的な軍隊社会らしいな…と思う一方、出てくる軍人の妻たちがかなり多様で、インターレイシャルカップルや妻が出征した女性同士のカップルなども出てくるし、妻たちの出身階級や人種や出身地もたぶんかなりバラバラだ。しかしながらどの女性も、夫がいない間は常に電話や玄関のベルに怯えて暮らしている(戦死や戦傷の報告である可能性があるからだ)。そういう女性たちが集まって、仲違いもしつつ、女性同士の絆で結ばれたコミュニティを作って相互に支えてあっている様子を描くというのは非常に興味深い。
物語の大部分は、仕切り屋のケイトとアクティヴィティ責任者でそこそこ音楽センスもあるらしいリンダの間の反目と友情の形成に焦点をあてている。ケイトはやたらと合唱の運営に首を突っ込んでくるのだが、実はケイトは夫が出征したばかりではなく、少し前に同じく軍人だった息子の戦死を経験しており、悲しい気持ちを紛らわすためにひたすら忙しく過ごそうとしてた。ケイトはいかにもイギリスのミドルクラスらしいstiff upper lipな精神を保とうとしているのだが、そこがかえって他人に近づきにくい印象を与えるし、自分自身の感情にもきちんと向き合えていない(おそらくケイトが一番階級が高い家庭の出身で、いまいち周りに馴染めていないのもそのへんが関係していると思う)。そんなケイトが合唱に参加することで夫ときちんと話し合ったり、悲しみに向き合ったりすることを学んでいく。
『フル・モンティ』や『カレンダー・ガールズ』なんかにそっくりな感じのイギリスらしい作品で、女性同士の連帯をユーモアを交えて描いている。その点では楽しめる作品なのだが、そもそも軍隊とか戦争というのがあるからこういうふうに愛する人の死に怯える女性が生み出されてしまうわけで…という根本的な問題には本作は突っ込んでいない。今アフガニスタンがどういう状況かということも考えると暗い気分になってしまうが、そのへんにも別に突っ込んではいない。単体の映画としては面白いが、描かれていないものについて考えると気が滅入ってくる作品である。