ロンドン観光ツアー(2)ミュージカル『ウィー・ウィル・ロック・ユー』〜クイーンの並外れた知性は頭の悪さを許容する!

 昨日の続きということで、ドミニオン劇場でやってた『ウィー・ウィル・ロック・ユー』の感想。


 これはクイーンの歌を用いたジュークボックスミュージカル(既存のアーティストの楽曲を使用したミュージカル)なのだが、とにかく話はないも同然だし演出もぬるいし、なんかクイーンの熱烈なファンが何人か集まってノリだけで作ったB級SFをビッグバジェット版で見せられてる感じ…なのだが、とりあえず作り手(書いてる人も演奏してる人もパフォーマーも)が本気でクイーンを好きらしいということだけはひしひしと伝わってくるので、なんか酷評する気が起きないというか、まあそんな感じの非常に内輪なミュージカルである。しかしながらこんな内輪なミュージカルが世界的大ヒットとは、全くクイーンの内輪は世界の内輪である(…何がなんだかよくわからないが)。


 とりあえず筋としては、300年後くらいの監視社会でロックに目覚めた反逆者たちがクイーンの曲を武器に監視社会の女王と戦うというもので、フットルースマトリックスをまぜて思いっきり安くしたような感じの話である(言っておくけど、マトリックスはともかくフットルースはもとから安い話だから。それをさらに安くした感じ)。とにかく話は全く緊張感がなくてかなりどうでもいいのだが、台詞にロックファンなら喜ばずにはいられないようなくすぐりがごっそり仕込まれているので、不覚にも笑ってしまう。それから全編ギンギラギンのドラァグショーみたいなこれまた安いファッションや美術やCGにもクイーンのあのいい意味でわざとらしいグラマラスなパフォーマンスを思わせるとこがあるし、パフォーマーのがんばりが相まって、なんかけなす気になれない(周りの客も最後は総立ちになって喜んでいたので、やっぱりあの独特の内輪な雰囲気にやられてしまったものと思われる)。


 しかしながらこのどうしようもない脚本のミュージカルを見て思ったのは、クイーンというのはスタイルが極めてキャンプであるせいか、ミュージカル特有の物語のぬるさというか緩さを絶妙に許容してくれるところがあるということである。アバも結構そういうところあると思うのだが、アバの曲を使った『マンマ・ミーア』とクイーンの『ウィー・ウィル・ロック・ユー』がジュークボックス・ミュージカルとして最も舞台で成功しているっていうのは、たぶんこの二つのバンドがロック史上最もキャンプでかつ最も売れたバンドであることに関係あると思う。楽曲の売れ方とかを考えるとビートルズのミュージカルだって舞台でできそうなもんだが、ビートルズにはどことなくシリアスなところがあるのでどうもミュージカル的お気楽さに欠けている(映画の『アクロス・ザ・ユニヴァース』はヴェトナム戦争がテーマだったしね)。しかしながらクイーンの楽曲というのは、ものすごく緻密に作られているにも関わらず、根本に何か完全に真剣になり切れないところがある。どんなにドラマティックで悲劇的な曲を作っても最後はとっぴんぱらりのぷうで元に戻ってしまうというか…まるで面白い話だけをしようとする語り部がホラを吹いているような響きがある。


 しかしながら、アバはともかくクイーンにあれほど「聴けば聴くほど頭が悪くなりそう」なポテンシャルがあるとは思わなかった。私、クイーンは知性に富んだバンドだと思ってたんだけど、この並外れた知性は全て意図的にバカなことをやって楽しむ方向に用いられている気がする。なんというか、クイーンの知性っていうのはいかに生きるべきかとか、人生とは何かとか、そういうものには絶対に向かわない。人生は真面目に考えるには重要すぎることがらだというのがたぶんクイーンの美学なんだろうと思う。クイーンのバンドメンバーはみんななかなかにつらい人生を生きてきたと思うのだが、たいていの曲は美しいし楽しいしポジティヴだ。そこが素晴らしい。


 …そんなわけで、私は『ウィー・ウィル・ロック・ユー』を見てひたすらクイーンってとにかくすごいなと思った。パフォーマンスの内容は楽しかったけどまあ結構どうでも良かった…かな。とはいえ、次回母親が来た時に連れて行ってやりたいかも。

 ちなみにクイーンのブライアン・メイは世界最高のギタリストというもっぱらの噂だが、二年前に天文学の博士号を取得している。うちもブライアンにならって博士号取得を頑張らねば…