ラウンドハウス座、RSC『リア王』〜内容は良かったが観劇環境がイマイチ

 ラウンドハウス座でRSCの『リア王』を見てきた。スケール感のある演出で悪くないと思うのだが、この間ドンマールでデレク・ジャコビの『リア王』を見たばかりなのでちょっと見劣りしたかな…

 グレッグ・ヒックスのリア王はややクセがあるがとてもよい。ちょっと若めでシニカルで辛辣な感じのリア王で、最初は非常にエネルギッシュな「気が若い」王だったのに、次第に自分の老いを悟るようになり、娘たちの仕打ちで狂気に陥って弱々しいやせた身体を風雨にさらして叫ぶようになるあたりはとてもメリハリがある。なお、嵐の場面の演出はジャコビの『リア王』とやや似ており、最初はあまり叫ばず絶望したような感じからだんだん声が大きくなるという台詞回しと(ただしジャコビ版ではリア王が台詞を言おうとするとすべての音響効果が停止して完全な静寂になるのだがそういう演出はない)、照明と音響の工夫で風を表現するという表現方法を採用していた。おそらくこういう演出が流行っているんだろうな…ただラウンドハウス版リア王では、リア王と道化を一段高くなったせりの上にのせ、そこに舞台天井に設置した放水マシン(?)みたいなやつでピンポイントで雨を降らせて、そこに照明をあてて水を目立たせるという視覚的に派手な演出を採用していた。かなり前の席で見たからだと思うのだが、この演出は結構迫力があった。

 ヒックス以外の役者の芝居はおおむね良かったと思うのだが、ただコーデリアは全然良くなかったな…女優さんの芝居がかなり不調だと思ったのと(感情表現が豊かなリア王に比べて表情がすごく少ない)、あととても物静かな女性として演出しているのも良くないかと思った。リア王を見るといつも思うのだが、コーデリアに大人しそうな女優さんを採用して大人しそうに芝居させるのはゴネリルとリーガンとの対比がかえってはっきりしなくなるのであまりよくないと思う。いろいろ演出の方針はあると思うのだが、ゴネリルとリーガンはうわべは落ち着いて礼儀にうるさい大人だが内面は野心が渦巻く女性たち、コーデリアは逆におてんばで細かい作法にはこだわらないが(道化の女主人で癇癖が強い父に気に入られているんだからおおらかな性格のはず)心は優しい若い女性というふうにしたほうが最初の国分けの場面の効果が高くなると思うのである(なんてったってこの劇のテーマのひとつは人間のうわべと内面の違いなんだから)。そういうわけでコーデリアの演技と演出にはかなり疑問があった。

 全体に音響や照明の演出はかなり凝っていて、場面によってはけれん味たっぷり。照明をバチバチ言わせてつけたり消したりすることで不穏な空気を醸し出すスタイルは好き嫌いがありそうだが、私は悪くないと思ったな…ただし子供やお年寄りは見ていてすごく疲れそうだ。

 そんなわけで内容は結構良かったと思うのだが、観劇環境はあまり良くなかったかも。マチネのスタンバイチケットでかなり前のほうで見たのだが、うちが座ったところは周りがお年寄りばかりでイマイチ客の反応が悪かった一方(前の席のおばあさん二人が休み時間にあらすじを確認しあっていたのだが、『リア王』って都市喜劇とかと違ってそんなに複雑な話じゃないんだけど…)、正面二階に社会見学で見に来たと覚しき高校生の大集団が座っており、この子たちが結構上演中もざわざわしててしかもどう見てもそこは笑うとこじゃないだろっていう箇所で大爆笑するので(おそらく芝居見たことないんだと思う)、近くは反応がとろいのに遠くで爆笑が聞こえるというよくわからない観劇環境になっていた。うーん…高校生が社会見学に来るのはもちろん大事なことなのだし、芝居見たことないヤツにへんなとこで笑うなと言うのも酷だとは思うのだが、もうちょっとマナーをさぁ…