70年代スコットランドの貧しい非行少年たちを描いた出来は良いが暗い映画、『NEDS』

 『マグダレンの祈り』(←気力がないと見れなそうな内容なので未見)のピーター・マラン監督の最新作、『NEDS』を見てきた。

 見る前から悪い予感がしていたのだが、案の定英語はほとんどわからなかった。スコットランドの英語は『トレインスポッティング』程度のものでもほとんど聞き取れないので、70年代の不良の俗語なんかが入った日にゃあもうお手上げ。しかも不良(スコットランドスラングでNEDSというらしい)はほとんどワンセンテンスにひとつはfuck(←しかも発音が「ファック」じゃなく「フォック」っぽいので余計聞きづらい)を入れて話すので、いったい何を言いたいのか聞き取れるところでもさっぱり。fuckが増えるほどノンネイティヴには意味がとりづらくなっていく。

 あらすじは非常にシンプルな「転落もの」で、主人公は70年代スコットランドのワーキングクラスの家庭に育ったジョン。ジョンは優等生だったのだが、貧しい家庭の出身で兄が札付きの不良であったため中学で教師たちから偏見の目で見られ、ミドルクラスの友達ともちょっとしたきっかけでうまくいかなくなり、どんどん不良になっていく。

 …で、私は普段不良が殴り合うだけの映画は見ないので(『フーリガン』とか『This is England』とかも見てない)多作品と比較してどうかとかはよくわからないのだが、この不良っぷりの描写がまあとことんかっこ悪くて痛そう。派手なケンカアクションは一切なく、だいたいはちょっと殴り合ってあとは逃げるだけか、ケンカが悪化した時は汚い格好で棒(ケンカ専用の棒のようなものを持ち歩いている)でボコ殴りにするやらナイフで刺すなら、おそろしく痛そうで颯爽としたところなどは皆無。殴られて死にかけるヤツとかも出てくるし、まあたぶん不良少年のケンカなんていうのを美化せずリアルに描くとこうなるんだろうなと思った。

 主人公のジョンを演じるコナー・マッキャロンは素晴らしいと思った。見た目はがっしりしているが心はとても繊細で、ちょっとしたことをきっかけに優しい少年から札付きの暴力青年へと転落していく様子を非常によく表現していると思う。正直、最後のほうのジョンの行動は暴力的すぎてワケがわからないのだが、最初のほうでどうしてジョンが不良になってしまったのか理由をきちんと描いているので見ているほうは主人公を切り捨てることができないんだよな… 

 あと、音楽の使い方が大変良い。T.レックスやスウィートをうまく使っているのと、あとケンカのバックに流れるセンセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンドの"Cheek to Cheek"とかすごい。はたまたジョンの友達であるミドルクラスの優等生とワーキングクラスの不良どもが両方この手のグラムロックを聴いてるっていうところが面白かったな…監督の趣味もあるだろうが、「同じ音楽を聴いて喜んでいる、根っこのところではそこまで違いがない連中なのに、貧しいだけでここまで違いが出る」というのをよく表していると思った。

 全体としては大変暗い映画で気力がないと最後まで見られないと思うが、非常に真摯な気持ちで真面目に作っている出来の良い作品だと思う。ただし最後のほうはかなりだるかったな…終盤ネタギレになったのかちょっとだるい感じになり、終わらせ方は余韻を出そうとしたあまりちょっとわざとらしくなったように思う。まあ好みもあるだろうが…

 なお、この映画のスコットランドでの封切りに際して本物のNEDSが映画館に押しかけて上映はえらいことになったらしい(ニュースはこちら)。しかしながらスコットランドでは地元を舞台にした若者映画ではだいたい封切り時に若者が騒ぐという噂もあるので(『トレインスポッティング』も若者が押しかけたとか)、どうなのかな…