キメっぱなしで大人になったっていいじゃないか~裏『トレインスポッティング』としての『プーと大人になった僕』(ネタバレあり)

 『プーと大人になった僕』を見てきた。

www.youtube.com

 主人公であるクリストファー・ロビン(ユアン・マクレガー)は子供時代、プーをはじめとするぬいぐるみや野生動物の友達とサセックスの田舎にある100エーカーの森で楽しく暮らしていたが、寄宿学校で故郷を離れ、結婚して家庭を持った後第二次世界大戦に従軍して地獄を見る。終戦後、ロンドンでカバンの会社であるウィンズロウ社の効率担当になるが、仕事に追われる毎日で妻のイヴリン(ヘイリー・アトウェル)や娘のマデリン(ブロンテ・カーマイケル)を心配させる毎日だ。とある週末、残業でサセックスのコテージに行けなくなり、家族のいないロンドンの家でひとりで仕事をしていたクリストファー・ロビンのもとに、突然プーが現れる。マイペースなプーにふりまわされるクリストファー・ロビンだったが…

 

 この映画の予告編を見た時、何しろユアン・マクレガーが出てるもんで、まるで『トレインスポッティング』のレントンがまたヘロインを初めて幻覚のプーが動いているみたいだ…と思ってちょっと不安になったのだが、『プーと大人になった僕』は思ったよりも断然、『トレインスポッティング』に似ている。クリストファー・ロビンの世界にかつてのヤバい仲間であるプーたちが戻ってきたせいで、ひっきりなしにヘロイン幻覚なみのサイケデリック珍事が襲ってくる。プーがいなくなるとクリストファー・ロビンが怪物へファランプをつかまえるための罠に落ちてしまうという描写はまるで禁断症状みたいだし、レイヴのかわりに野外でお茶パーティだ。ご丁寧に『トレインスポッティング』を思わせる、水に入る場面や車にぶつかる場面まである。

 しかしながら『トレインスポッティング』と違って『プーと大人になった僕』は、1度クリーンになっていたのにやはり人生に無理が出て、自分がかつて頼っていたものが戻ってくるという展開だ。『トレインスポッティング』で主人公が頼っていたのはヘロイン、『プーと大人になった僕』ではテディベアだ。テディベアのほうがだいぶ健康にはよろしい…のかもしれないが、刺激の点では遜色ない。この作品は子供も大人も楽しめる心温まる映画なのだが、奥にこめられたメッセージは「キメっぱなしで大人になってもいいじゃないか」だと思う。ふつうならプーみたいな子供時代の想像の友達というのは、大人になったら別れなければいけないものだ…とされることが多いと思うのだが、この映画は大人がサバイバルするためには子供心が絶対に必要であり、100エーカーの森みたいなところでプーやイーヨーやティガーみたいな素っ頓狂な連中とハチミツでラリって馬鹿騒ぎすることが人生には必要なのだ、という前提で作られている。現代社会はあまりにもストレスが多すぎて、テディベアでもキメなきゃやっていけない。

 

 クリストファー・ロビンを演じるユアン・マクレガーの演技は大変すばらしく、つかれた大人から少年の心を持った生き生きした男に戻る様子をとても自然に表現している。プーさんの声をあてているジム・カミングズも本当に当たり役で、声は渋いのに子供っぽく無邪気な行動をするプーを全く違和感なく演じている。ぬいぐるみのプーと実写の人間であるクリストファー・ロビンが一緒に動いていても全然、おかしなところがない。残念ながらベクデル・テストはパスしない。