ナショナルシアター『間違いの喜劇』〜あまり好きじゃない戯曲だが、演出は良かった

 ナショナルシアターで『間違いの喜劇』を見てきた。

 これはシェイクスピアの作品の中でも最初期のもので、私の考えでは『じゃじゃ馬ならし』と並んで粗野というか荒削りであまり出来の良くないものである(やたら殴り合いが出て来たりとかするし、プロットもありがちな感じで単純だし、その後看板になる女形がいなかったせいか喜劇にしては女性の役もぱっとしないところがある)。ただこのプロダクションは役者もセットも音楽もとてもエネルギッシュで、ファース(笑劇)としてとても楽しめた。

 セットなんかは全部現代ふうで、回転する舞台の上にけっこう丈の高い三階分くらいの建物を組み、場面転換ごとにくるくる回してそのすきに後ろでセットを変えるという感じである。風景はあまりイングランドらしくなく地中海の海沿いの街ふうで、主演のレニー・ヘンリー(シラキューズのアンティフォラス)はアフリカ英語を話しており、ばっちりスーツで出張でやってきたビジネスマンみたいな感じである。使用人であるシラキューズのドローミオを演じているのはルシアン・ムサマティで、こちらはTシャツを着てラフな格好。エフェソスのアンティフォラスの妻エイドリアーナはセレブ妻という感じである。こういうキャストが舞台上をエネルギッシュに動き回り、最後のアンティフォラスとドローミオをつかまえる場面では完全なドタバタ劇の追いかけっこになる。まあ笑えて面白いという以上にそんなにぐっときたりするところはあまりない…と思うのだが、ただ老夫婦をめぐる脇筋は冒頭の夫婦が別れ別れになるいきさつの回想場面を実際にセットの後ろの部分で上演し、最後に感動の再会…となるようにしていてちょっとほろっとしたかな。

 あと、音楽が結構よかった。場面転換の際にギターバンドが出て来て、精神の病に関する歌を民謡ふうにアレンジして歌うのだが、この転換もなんかコミカルでとてもおかしい。使っていた曲はパロマ・フェイスの"Upside Down"、ブラック・サバスの"Paranoid"、ナールズ・バークレイの"Crazy"など。