グローブ座ふう、駒場の『から騒ぎ』

 駒場の21KOMCEE MMホールで『から騒ぎ』を見てきた。うちの指導教員だった河合祥一郎先生の新訳・演出によるものである。

 ハコは劇場ではなくただの多目的ホールで、真ん中をあけて椅子を四方に並べるだけ。道具といえば椅子くらいしか使わず、もちろん背景とかも何もない演出である。天井が高いホールなので、雰囲気はちょっと宮廷上演みたいだ(ずっと狭いわけだが)。ただ、新築の建物っぽいシンナー臭?のようなにおいがしたのと、四隅の照明がいかにも多目的ホールっぽくちょっと安っぽかったのはいただけなかったが…

 ルネサンスふうの衣装、ふんだんに取り入れられた踊りや音楽、極力小道具などを少なくして役者が客席に入っていく演出などはグローブ座を意識しているのでは…と思ったのだが、こういう狭い劇場でやると非常に親密感が出て、それこそグローブ座の平土間を彷彿とさせるようなくだけた雰囲気があってとても楽しめた。新訳もわかりやすく、パッと聞いてすぐわかるような台詞回しになっていてこういう演出によくあっている。役者さんは皆若々しかったが、とくにベネディック(高橋洋介)がとても良く、お腹の皮がよじれるほど笑った。おどけた二枚目半ふうな役作りは少しデイヴィッド・テナントのベネディックを思わせるところがあって(テナントのベネディックは私が今まで見た中でも一番くらいにすごいと思った喜劇の芝居でちょっと段違いに好きなんだけれども)、まあそこはちょっと個人的にこういうベネディックが好きだという私の好みもあるのかもしれないが…

 あと、この芝居を見て気付いたのは、ビアトリスとベネディックはむちゃくちゃさわやかな人格を持っていることである。2人とも、恋の罠にかけられる場面でそれぞれの親友であるヒアローとクローディオからけっこうひどい悪口を言われるのだが(傲慢だとか朴念仁だとか)、全然親友に対して怒らないで、自分に悪いとこがあるんじゃないかと考える。こういう思考回路は、まあ恋に舞い上がってるというのもあるだろうが、それ以上に2人とも相当にさわやかでおおらかだからだっていうことなんだろう。だからこそ2人ともドン・ジョンの奸計にひっかからない。もともとドン・ジョンが悪巧みをする時ベネディックをターゲットに含めないのは、ベネディックはおおらかなぶん頭が回るので容易にひっかけられないと思ったんだろう。

 全体的には実に喜劇的ですごく良かったのだが、一点よくわからなかったのはドン・ジョンがちょっとリチャード三世っぽすぎるということである。あれはあまり効果がわからなかったかも…