Margaret Healy, Shakespeare, Alchemy and the Creative Imagination: The Sonnets and A Lover's Complaint(『シェイクスピア、錬金術、創造的想像力――ソネット集と「恋人の嘆き」』)

 Margaret Healy, Shakespeare, Alchemy and the Creative Imagination(『シェイクスピア錬金術、創造的想像力』), Cambridge UP, 2011を読んだ。タイトルどおり、『ソネット集』と「恋人の嘆き」を錬金術のモチーフに着目して一貫性ある読み方を提供するというもの。

 最初はあまりなじみのない錬金術の話がたくさん続いてつらかったが、第三章と第四章がとても面白かった。第三章はBlacknessがテーマで、もちろんキム・ホールのThings of Darkness: Economies of Race and Gender in Early Modern Englandとかをふまえてはいるのだが、人種の話だけではうまく割り切れない黒と白の複雑怪奇な色彩体系を錬金術の象徴ですっきり読み解くというもので、これは今後かなり発展性がありそうな研究テーマだと思った。この点については、ぜひraceが専門の人に錬金術がraceをどう利用して取り込んでるのかといったテーマで論考をあげて議論を深めていってほしい。

 第四章は「恋人の嘆き」がテーマで、この一見あまりパッとしない詩が実はソネット集同様錬金術をキーワードにするとかなり一貫性のある読み方ができるという話をしている。とくに見たところ単なる女性嫌悪としか見えなかったり、あるいは単純にワケがわからなかったりする箇所なんかを錬金術の象徴と照らし合わせることで壮大な自然観の話に持っていくところとかがとても興味深い。なお、この章ではブライアン・ヴィッカーズの「恋人の嘆き」のauthorshipについての疑問をかなり強く批判していてそこも小さいポイントとしては読み所かも。

 ただ、これについてはいろいろ書評とかもあがっているし今後もあがる予定らしいので、錬金術についての細かい議論はちょっとそっちを見てからまたおさえたいところ。自分ひとりでは全部理解できたかかなり自信がない。