Leo Hughes, The Drama's Patrons: A Study of the Eighteenth-Century London Audience(レオ・ヒューズ『演劇のパトロンたち――18世紀ロンドン観客研究』)

 Leo Hughes, The Drama's Patrons: A Study of the Eighteenth-Century London Audience(レオ・ヒューズ『演劇のパトロンたち――18世紀ロンドン観客研究』), University of Texas Press, 1971を読んだ。

 これは18世紀イングランド演劇の観客研究としては基本的な研究書で、少し古いが主要なトピックはたいていカバーしてると思う。これ一冊読めば18世紀ロンドンの観客の趣味がどのように変容したのか、それをもっと知るためにはどのような一次史料にあたればよいのかもだいたいわかる本である。1737年のライセンシングアクト(演劇の検閲法ね)の前後に演劇においてモラルがどうとらえられていたかという話もコンパクトにまとまっているし、フェミニズムの視点はないが女性の観客についても結構よく触れているし、劇場キャパシティの算定などもきちんとやっている(発掘で結構キャパシティがよく算定できるイングリッシュ・ルネサンスの劇場に比べると、場所が今の劇場街とだいたい同じで発掘とかできない18世紀の劇場は文字史料とか地図を頼りにするほかなく、キャパシティ算定が難しいらしい)。


 18世紀の演劇について主要なテーマであるナショナリズムとか反フランス感情についてももちろん触れられている。反フランスのアジビラなんかはこの頃のものを読んだことがある人にはおなじみかとも思うのだが、なんか「フランス政府は英国人を堕落させるために露出度の高いフランス美女をダンサーとして英国に送り込んでいる!陰謀だ!」ということをけっこうマジで主張した人が18世紀にいたらしい(145)。こういうことを言うと200年後くらいにアホの見本として文化史家に引用されるから気をつけたほうがいいね。


 グーグルスカラーなどで見たかぎりでは18世紀演劇研究分野ではよく読まれていても他分野ではあまり読まれてないみたいなのだが(リンダ・コリー『イギリス国民の誕生』とかGerald Newman, The Rise of English Nationalism: A Cultural History, 1740-1830とかで触れられてた覚えがない)、この前や後の時代の観客論をやっている人、18世紀イングランド史一般をやっている人も読んでおいて損はない本だと思った。