沙漠か、森か、オフィスコメディか〜『アラビアのロレンス』リマスター版をBFIにて鑑賞

 BFIで4Kリマスターされた『アラビアのロレンス』を見てきた。


 四時間くらいあるので途中で15分休憩が入る。高校生の時にいっぺんビデオで見たのだが、今回のリマスター版はとにかく色がきれいになっていて、沙漠で遠くから人が現れる場面とかが鮮明なのがいい。前半はほんとに沙漠のギラギラが強烈なので見ていて猛烈に喉が渇いてくる(私を含めて数人、お客さんが休憩時間にカフェに走っていた)。こういう作品が大スクリーンできれいな色で見られるのはほんといい体験だと思う。


 あと、マチネで四時間という厳しい作品なのに結構BFIは混んでおり、お客さんはだいたい老夫婦とか。それで英国人はこの映画を見てかなり頻繁に笑う。会ったばかりのロレンスとアラブの人々のかみ合わない会話とかもそうだが、一番みんな笑っていたのはロレンスと英国軍の上司のやりとりで、私も「あれ、これこんなに笑える映画だっけ…」と思うくらい笑ってしまった。こういうのは高校生の時は何だかよくわからなかったので、たぶん映画やテレビで英国式のユーモアに頻繁に触れているとあのなんともいえないおかしさがわかるようになるのかもしれんと思う。ロレンスと上司の気まずーい感じとか、軍隊という職場における礼儀作法をめぐるいろいろなやりとりってある意味『The Office』(これは私は非常に苦手なんですが)とか『ハイっ、こちらIT課!』に通じる独特なオフィスコメディの感覚がある気がするのだが、。


 で、この映画はものすごいエピック大作なのに非常にディテールが繊細である上、一部の女子に大人気になりそうな要素が多いのでそちらに目をとられてしまってちょっと二度見たくらいではよくわからないところも多かったのだが、二度目に見て思ったのはこの作品はベルトルッチの『暗殺の森』とよく似たテーマを扱っているということである。いかにもイタリアの芸術映画ふうな『暗殺の森』に比べると『アラビアのロレンス』は歴史を主題とした二次創作みたいな感じでだいぶ印象が違うのだが、どちらも抑圧されたホモセクシュアリティと残虐さとしての男性性に軸を置く自己成型を世界史を絡めて描き出そうとしているという点ではかなり似ている気がする。時間があったらもうちょっとゆっくりこの二つを比較してみたいが…


 あと、よく考えたら『シャーロック』のジョンは中東での戦闘経験のせいでスリルなしには生きていけなくなってしまったイギリス兵であるという点で『アラビアのロレンス』に出てくるロレンスの延長線上にあるような気がするのだが、なんかそういうのって軍人フェティシズムと中東へのかすかな罪悪感を感じているイギリス人にひょっとしてウケるキャラなんだろうか。そういえばジョンを演じるマーティン・フリーマンピーター・ジャクソンの『ホビット』に主演しているが、ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リング』三部作はかなり『アラビアのロレンス』の影響が濃厚だったな。