も、もうちょっとクリアにしてくれ!〜『ワールド・ウォーZ』

 『ワールド・ウォーZ』を見た…のだが、映画館で見なきゃよかった。

 別に内容がそんなにつまらないわけではなかったのだが、内容以前に冒頭部分の異常にめまぐるしい編集と部分的に使われている手持ちカメラ撮影に激しく酔ってしまい、最後までずっと気持ち悪かったのであんまり楽しめなかった。私は手持ちカメラ撮影がものすごく苦手で吐き気と腹痛両方に襲われるため、そういうものが使われている可能性があるフェイクドキュメンタリーとかPOVアクション映画はなるべく映画館に見に行かないようにしており、そのせいで最近まで『第9地区』を警戒して見てなかったし(この間覚悟を決めてiTunesで見たら思ったほど全然手持ちとかなくて映画館でみればよかったと思ったんだけど)、ジェイソン・ボーンシリーズは手持ちでアクションを撮っているという噂なのでひとっつも見ていないのだが、さすがに3Dのハリウッドゾンビ映画には手持ちカメラ撮影とかないだろうと思って『ワールド・ウォーZ』を見にいったらいやいや予想より全然ブレブレでひどかった。っていうかブラピが出てるハリウッド大作なのになんでこんな質感で撮るんだよ…わざとカメラ揺らさなくてももっとクリアな質感でゾンビを撮ったほうがリアリティ出ると思うんだけど。

 とりあえず、この映画の冒頭部分は手持ち撮影と異常に速い編集という、私が最近どうかと思ってるアクション映画の流行ふたつがかなり入っていたので、気持ち悪くなっただけじゃなくあまり感心しなかった。なんというか手持ち撮影って「リアル」を目指しているんだと思うけど、映画のリアリティってそういうことなんかという疑問が私にはずっとある。だってさ、人間が見てる風景って「手ブレ」しないよね?手ブレっていうのは「撮影している人」目線のリアルであって、「見てる人」目線の「リアル」じゃないから、手持ちカメラで撮影することによってかえって「これは映画です!撮影してます!」っていう雰囲気になって没入感が減ると思うのである(そういうことを狙って手持ちで撮ってる人もいるのかもしれないが)。映画は現実を再構成しつつ場面で切り取ってきてお客さんに提示するものなんだから、手持ちカメラのブレブレみたいな小手先の「現実っぽさ」なんかいらなくないか?素人っぽいブレブレ画像じゃなくもっとクリアかつプロフェッショナルな画面で提示したほうがインパクトがあると思うんだけど。あと最初のほうのやたらにカットが切り替わるところもスピード感を出す効果はあんまりなくて、かえってごちゃごちゃしていて何が起こっているのがよく見えないというふうになっている気がした。最近のアクション映画って(ダンス映画とかもそうかな)こういうふうにじっくり見せないとこがある気がするんだけど、ああいうのって効果をあげてるのが激しく疑問。

 後半はガラリと雰囲気が変わり、編集も落ち着いてきてやっと酔わずに見れる…と思ったら突然イスラエルの壁が出て来て別の意味で引いた。というかイスラエルのシークエンスは既にいろんなところで議論されてるみたいなのだがあれはいったい何を言いたかったんだ…モサドのエージェントの話をきいていると「何これシオニズム礼賛なの?」「ゾンビが難民の隠喩だとしたらひどくない?」「いきなりパレスチナ人に優しくすんの?」みたいな気分になるが、一方で最後にゾンビが壁を乗り越えてくるところは「隔離とか意味ないよな!」みたいに今のイスラエルを皮肉っているようにも見えるし、そもそもこのへん話がかなりとっちらかってきているのもあっていったいこのイスラエルの場面で何をしたかったのか(ゾンビ壁のぼりを撮りたかった、というのはあるだろうけど)いまいちすっきりしなかった。こちらで指摘されているが「スピーカーまで使って大声で歌をうたい、それのせいでゾンビが壁をこえてくるというのがマヌケすぎ」というのはうちも思ったし(「なんでヘリで監視してんのに気付かないんだよ!」と内心ツッコミを入れた)、ブラピのヘリがブラピを乗せないで勝手に離陸しちゃうのも「??」っていう感じだし、なぜかそのあとブラピが乗った飛行機にゾンビが潜んでたり、なんかいろいろアイディアを盛り込みすぎてとくにこのへんぐっちゃぐっちゃになっていると思ったので、せっかく画質がクリアになったと思ったら話がクリアじゃなくなってなんか残念だなと思った。


 とはいえ、別につまんない映画ではなかったと思う。ブラピは頑張っているし、笑いどころがたくさんあるのもいい。あと、「政府は頼りにならない、国連とかWHOのほうがまだ希望がある」っていう展開はアメリカ映画としては比較的良心的なほうなんじゃないかと思ったのだが、あれはブラピの個人的信条に関係あるよね。