今泉洋子『映画の文法―日本映画のショット分析』(彩流社、2004)を読んだ。
これ、とても便利な本だったのだが、たぶんタイトルが悪くて「映画文法ハンドブック」とかなんとかにすべきだったのではと思う(前に『なんでもわかるキリスト教大事典』を読んだ時もそう思ったのだが、どうして「必携」とか「ハンドブック」の類なのにそういうタイトルで売らないんだ…)。タイトルから想像するような日本映画に関する研究書を予想して読むと肩透かしを食らうと思うのだが、これは教科書とかレファレンス書に近い本である。映画の主要な編集・撮影テクニックに関わる用語について簡単な定義解説があり、それに例題としてそうした技法を用いている日本映画をとりあげた短いショット分析(画像があるのでわかりやすい)がついているというもので、初学者向けの教科書としても使えるし、手元に置いておいて映画用語の定義をちょっと確認したい時とかにも使える大変役に立つ本だと思う。だいたい映画の技法とそれが狙っている効果っていうのはたくさん映画を見ているとなんとなくわかってくるところがあるものだが、それをきちんと「ここまでがああいう技法で、ここからはこの技法」とか「ここではこういう効果を狙っている」とか「アメリカと日本の技法を比較すると…」みたいに分節化するのは大変難しいと思う。こういうレファレンス書が一冊手元にあるだけで結構違う。
ただ、例題のショットの画像資料がちょっと暗く小さくて見づらいという難点がある…のだが、これはひょっとしたらナクソスミュージックライブラリーと協力して音源をダウンロードできるようにした『西洋音楽史I:バロック以前の音楽』みたいに、今後映画アーカイヴと協力してそれぞれの場面をダウンロードしながら見る映画のレファレンス本とかが出るようになるのかもしれない。
かなり入門的な内容なのではしょってしまっているところとかはあるのだろうが、学部の映画の授業とかならもう明日からでも教科書として使えそうな気がする。というか、学部ではまずこういう本を読む授業をして欲しかったかも…私が学部生の時はこういう基礎知識がないまんまいきなり映像技術に関する論文とかを読まされて結構きつかった覚えがあるので、映画の授業やる時はまず形からというか技術用語から入って欲しいと思うところがある。