ベケットはつらい。人生もつらい。でもそれはくだらないってことじゃない〜サミュエル・ベケット『ソロ』

 シアターχで、アイルランドの劇団マウス・オン・ファイアによるサミュエル・ベケット『ソロ』公演を見てきた。ベケットの比較的短い一人芝居、『わたしじゃない』『モノローグ一片』『クラップの最後のテープ』を連続上演するというもの。

 一言で言うと、感想は「つらい」。私は学部生の頃、「芝居を見るというのはつらいことだが、ベケットはそのつらさを最も意識的に活用した劇作家」であると習った。ということでベケットの芝居というのは本当に見ていてつらいし、さらに一人芝居となるともうつらさMAXである。しかしながらつらいというのはくだらないとか価値がないということではない。人生もつらいが、くだらないとか価値がないものではない。それと同じだ。

 最初の『わたしじゃない』と『モノローグ一片』は、全く動きがない芝居なので(前者とか暗闇で唇が動いてるだけだし)、まるでラジオを聞いてるみたいでとにかくつらく、なんか能みたいでたまに意識が遠のきそうになったのだが、後半の『クラップの最後のテープ』は、さすがに一人芝居の傑作と言われているだけあってとても面白かった。記憶装置としてのテープの使い方に気が利いているし、クラップの語りや動きには乾いた哀感ととぼけたユーモアがある。『ゴドーを待ちながら』や『勝負の終わり』なんかに比べると『クラップの最後のテープ』には独特の愁いを帯びた優しさがあるように思うのだが、どうだろう。