ボストン(10)型にはまらない信仰〜『サウンド・オブ・ミュージック』

 ボストンでも観劇しないとと思い、ボストンオペラハウスで『サウンド・オブ・ミュージック』を鑑賞した。全国ツアーで、演出はジャック・オブライエン。
 とても立派なオペラハウスである。

 セットがけっこう何種類もあり、だいたいは修道院とお屋敷なのだが、野外とかステージ、チャペルなどという設定の場面もある。とにかく照明の演出が凝っており、修道院のステンドグラスから光が差し込み、その前で女子修道院長が「すべての山に登れ」を歌うところなどはとても光の演出が面白かった。修道院長役はメロディ・ベッツという役者なのだが、アフリカンでかなりソウル味のヴォーカルだ。照明とこの声の質がよく合っており、修道院長が神々しく何重にも差し込むステンドグラスの光に照らされて豊かな声量で「すべての山に登れ」を歌うのを聞いていると、非常に敬虔で力強い印象を受ける。

 一方でマリア役はカースティン・アンダーソンという若い役者で、まだペース大学の音楽科の学生らしいのだが、とても透明感のある声で修道院長と良い対比になっている。最初のところでマリアが修道院長と「私のお気に入り」を歌うところは、真面目な修道院長がついつい陽気になってしまうところも含めてとても楽しい場面だった。しかし、舞台で見るとマリアはほとんど歌いっぱなしで、さらにヨーデルとかいろんな小技を使うのでかなり大変な役だなと思った。

 全体としては、この作品は型にはまらない信仰とか敬虔を扱ったものなのではないかという気がした。マリアは修道女になるのをやめて結婚することで異性愛的な秩序に回収されるわけだが、この物語では7人の子の母になるけれども劇中では実子を産まないので、マリアはちょっと風変わりな聖母、乙女でありかつ母である存在のように見えるところがある。そういうあまり型にはまらない女性であるマリアに対する修道院長のアドバイスも、神を愛することと世俗の男性を愛することは対立しないというもので、カトリックの大きな女子修道院の長としてはずいぶんさばけた感じで膠着した秩序にとらわれていない。アメリカ的にアレンジされているからこうなるというところもあるのだろうが、それでも信仰を形骸化させないこと、多様性のある敬虔さ、というテーマはこの作品の根底にかなり強くあるのではという気がした。