すべてが戻ってくる〜『レヴェナント: 蘇えりし者』(ネタバレあり)

 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督『レヴェナント: 蘇えりし者』を見た。

 19世紀のアメリカ、厳しい冬の間に毛皮とりの一団に参加しているヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)が主人公。ヒューはかつてネイティヴアメリカンの女性と結婚していたがその妻をなくして寡夫になっており、忘れ形見の息子ホークを一緒に連れてきている。ところがヒューはグリズリーに襲われ、なんとか相手のクマを倒すものの全身を負傷して瀕死になってしまう。一団はヒューをホーク、フィッツジェラルド(トム・ハーディ)、ブリジャー(ウィル・ポールター)にゆだねて先に基地に帰るが、フィッツジェラルドはホークを殺害し、ヒューを生き埋め同前にしてブリジャーとともにトンズラ。ヒューは死んだということにしてボーナスをもらおうとする。ところが不屈の闘志を持ったヒューは生還し、フィッツジェラルドに復讐しようとする…というのが主筋。これに先住民であるアリカラ族の一団が、白人に誘拐された娘ポワカを捜索するという脇筋が絡む。

 映像的には大変見所が多く、広くて寒々しい雪景色を単調に見せないよう、カメラを引いたり寄せたり回転させたりして冬の風景をダイナミックにとらえている(かなりの部分が自然光を用いたロケだそうな)。一方で森などはかなり閉所恐怖症的な撮り方をしているところもあり、自然を撮る時のメリハリを常に考えているようだ。こういう映画だとカントリーやブルーグラスを流したくなるものだが、意表を突いて坂本龍一とアルヴァ・ノトの現代音楽をかぶせてくるところも効果的で、すごくシャープでスリリングな印象を与える。これに寡夫キャラここにきわまれりというようなディカプリオの熱演と、とにかくイヤな野郎を楽しそうに演じるハーディの演技が火花を散らすので、長尺でだいたいは死にそうになってるだけの話であるにもかかわらずあまり中だるみが感じられない。

 テーマとしてはタイトルの「レヴェナント」(帰ってきたもの)そのとおりの話で、全てのものが戻ってくるという、ある意味で自然の循環と人間の生活サイクルを重ねた物語になっていると思う。ヒューが生還してくるのはもちろん、ポワカも白人の性暴力の犠牲になりつつ、復讐者として戻ってくる(ただ、このポワカの話はもっと掘り下げてもいい気がする)。ポワカの同族たちが白人の集団を次々に襲撃するのも、白人がアリカラ族の生命と安全を脅かしていることに対する当然の返礼として描かれているし、ヒューが自分の家族に危害を加える者たちを殺すのも返礼である。この返礼のサイクルは人間社会における公正な法秩序がほとんど機能していない状態において発生しているもので(秩序をぶっ壊しているのは主に白人なのだが)、植民地として先住民を虐げることで成立したアメリカに内在する破壊的暴力性を暗に批判しているのではという気がした。ただ、正直この作品はあんまり脚本じたいは洗練されてないと思うので、ちょっとはっきりしないところも多い。演技と映像に頼りすぎで、話の展開じたいにはかなり雑なとこがあるし、とくに先住民の脇筋などではもうちょっと深く描いてもいいのでは…と思うところが少し飛ばされているように思う。

 なお、この作品はベクデル・テストはパスしない。ちゃんとした台詞がある女性人物はポワカだけである。