今になったからわかることもある〜ミュージカル『プリシラ』

 宮本亜門演出のミュージカル版『プリシラ』を見てきた。3人のドラァグクィーン(そのうちの1人であるバーナデットは性別適合手術を受けて女性)がシドニーからアリススプリングスまで、おんぼろバスのプリシラ号に乗ってオーストラリアの砂漠を突っ切る旅に出る物語である。アリススプリングスではカジノでドラァグショーをすることになっていたが、なんとカジノの所有者は計画を立てたティックの元妻で、そこにはティックの幼い息子も…

 1994年に作られたもとの映画を高校生くらいの時に見て、単純に面白いと思った覚えがあるのだが、この年になって見直すと、いろいろ人生のつらい面を描いた作品だったのだな…と思ったし、またリップシンクドラァグの芸の楽しみ方も高校生の時よりよくわかってさらに面白かった。一方でボブの妻シンシアの描き方はちょっとミソジニーがひどいように思った。もともとの映画はオーストラリア映画史やクィア映画史に残る記念碑的な作品なのだが、若い時に見るのと大人になってから見るのですいぶん味わいが違っていて、何度でも楽しめる物語なのかなと思った。

 舞台版では最初にまだLGBTがひどく差別されていた頃の話だというような字幕が出る。おそらく現在は映画が作られた1990年代初頭よりもオーストラリアにおけるセクシュアルマイノリティの人権状況は良くなっているはずなのだが、それでもまだ解決せねばならない問題がたくさんある。『プリシラ』は少なくとも映画界におけるセクシュアルマイノリティの表現に対しては大きな影響を与えた作品であり、そう考えると原作の映画がヒットしたおかげでこのミュージカルには冒頭みたいな字幕が出るようになったわけだ。そう考えるとちょっと感慨深い。


 全体としてはディスコなどを全面的にフィーチャーしたジュークボックスミュージカルで、ど派手な衣装も目に楽しい作品だ。私が見た回ではティック(山崎幾三郎)、アダム(古屋敬多)、バーナデット(陣内孝則)というキャストだったのだが、比較的ミュージカルらしい芝居が全体的にこなれている若手に比べると歌はあんまりうまくないものの、女性の服装が板に付いていてショーの場面ではド迫力のバーナデットを演じる陣内孝則がけっこう良かった。3人ともあまり理想化されていないが愛嬌があり、欠点も可愛らしくて魅力があると思えるドラァグクィーンで、そこが「人生はいろいろあるけど素晴らしい」という作品のテーマに合致していて良かったと思う。

 ↓カーテンコールは撮影可。オーストラリアの砂漠の生きもののドレスで登場。