丁寧で地味な愛の物語に突然乱入するスティーヴ・カレル〜『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』

 『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』を見た。実話をもとにした作品である。

 ニュージャージーのオーシャン郡で警官をしている中年女性ローレル(ジュリアン・ムーア)はだいぶ年下の自動車整備士ステイシー(エレン・ペイジ)と恋に落ち、一緒に暮らし始める。小さな家を買い、犬を飼い、庭も造って幸せに暮らし始めるが、ローレルがガンであることが発覚。ローレルはステイシーに警察の遺族年金を残そうとするが、オーシャン郡はそれを許可しない。正義感の強いローレルの戦いが始まる。

 地味な話を丁寧に撮っており、前半は年も境遇も違う2人の女性の静かな恋愛モノなのだが、年金闘争のところでいきなりスティーヴ・カレル演じるユダヤ人のゲイアクティヴィスト、スティーヴンが介入してきて急に温度が上がる。スティーヴンはいかにもアクティヴィストという感じでよくしゃべるし強引だし周りの人が疲れるくらい元気な松岡修造みたいな人で、いろいろ持っていってしまうところがある。若いわりに落ち着きのあるステイシーは最初、ローレルを同性婚の広告に使いたがるスティーヴンを強引すぎると言って警戒するのだが、こんな人が病人を訪ねてきたらそりゃ心配になるだろうというレベルだ(全体的にステイシーはローレルのことだけを考える献身的な女性で、遺族年金じたい欲しがっていない)。そんなスティーヴンが相手でも、ローレルは冷静で平等とか正義、公正が大事だと述べ、同性婚からはちょっと距離を置いている態度を明確に示すあたりが面白い。病気だしあまり派手なことはしないのだが、ローレルは最後まで自分の信念を貫く女性である。

 全体としてはよくできた映画だし、リアリティ重視でたいした見せ場があるわけではないが最後まで飽きさせない作りで、役者も皆とても達者だ。日本で暮らしていると全くわからないアメリカの地方政治の仕組みなんかも面白い。ただ、レズビアンであるローレルとステイシーがかなり愛とか家庭を中心に描かれている一方、政治活動をするのはスティーヴンと、これまた熱い性格のローレルの同僚デーン(マイケル・シャノン)ということで、ちょっと男女で活動領域が分かれているみたいな描き方なのは違和感があった。もうちょっと女性のアクティヴィストによるサポートとかを描いてもいいと思うのだが…なお、ベクデル・テストはもちろんローレルとステイシーの会話でパスする。