ドーヴァーの演出が凄い〜子供のためのシェイクスピア『リア王』

 華のん企画の子供のためのシェイクスピアリア王』を見てきた。前半は普通という感じだったが、後半どんどん良くなったと思う。

 美術や演出はいつもの感じで、木の台と椅子だけを使い、それを組み替えたセットですべての場面を行う。最初は全員が黒づくめで登場し、セットを組み替えたり、場面によっては「夜」なんかを示すコロスのような役割を果たすのだが、出番が来ると黒い服を脱いでそれぞれの登場人物になる。いくつかダブルキャストがあり、道化とコーデリアダブルキャストというのはオーソドックスなやり方だが、ゴネリルとリーガンが互いの夫役をつとめたりするのはちょっと斬新だった。

 最初はケント(山崎清介)が人形を持って出てきてこれがカイアスだという説明があり、これはちょっとあまりよくないかなーという気がした。最初はケントだけで、姿を変えてリアに仕えようとするところで人形がカイアスを名乗るのほうがスマートだと思う。2人が庭師に変装してリアに仕えようとするところは『リチャード2世』の庭師のくだりの影響なのかなと思った。

 中盤から後半にかけてはどんどん盛り上がり、とくにグロスターがドーヴァーの崖から飛び降りようとするところは今まで見たことのない演出が取り入れられていて非常に新鮮だった。机を3つ高く積んでそこにグロスターがのぼり、実際にグロスターが高いところから飛び降りるのを夜に扮したコロスが受け止めるというもので、すごく緊張感がある。ふつうは平らなところをグロスターに断崖と勘違いさせるというのが演出のポイントなので、これはなかなか珍しい。

 演技は全体的にけっこう良かった。とくに口がうまくて優しそうな外見に狡猾さを隠したリーガンと、最初はのんき者ふうだったのがどんどん苦労して賢くなっていくエドガーのキャラクター造形がよかったと思う。