思ったほど浦島太郎ではなかった~『うリアしまたろ王』(ネタバレあり)

 山の手事情社うリアしまたろ王』を見てきた。『リア王』+『浦島太郎』ということらしい。

 

 ただ、基本的には『リア王』を90分強にカットするという筋で、『浦島太郎』要素はあまり多くはない。リア王(浦弘毅)が乙姫様(越谷真美)の幻影を通じて竜宮城(たぶん常世の国)につながっている…という設定で、最後にリア王が亡くなるところで玉手箱が活躍する程度である。全体的にリア王やトム/エドガーなどのキャラクターがホームレスになってしまうということを強調していて、野宿者の人たちが集まってリア王ごっこをする、みたいなところから始まる(この枠はもうちょっと全体を通して強調してもよかったかもしれない)。

 

 演出の特長としては、出てくる人たちがみんな良いとも悪いとも言えない複雑な人々になっていて、善悪がはっきりしないような印象を与えるようにしているということがある。リア王はかなり頑固で横暴な老王になっていて、冒頭の愛を宣言させる場面ではゴネリルやリーガンが暴力をふるわれる描写がある。どうやら上の2人の娘は父親から苛められてきたみたいで、これは父を恨んでいてもしょうがないかもしれない…ということがわかる。一方でコーデリアは父親からかわいがられていたようだが、そんなに美徳の化身として称揚されているわけでもない。悪役のエドマンドも、やはり今まで親からないがしろにされてきたらしい雰囲気がある。そんな殺伐とした中で、乙姫だけはこの世ならぬ美しさであり、リア王はその幻影を追っている。リアはこの幻影を通したなんらかの解放を求めているのだと思うが、この解放は常世の国につながっているので、生者の世界では得られないものだ。

 

 全体としてはスピード感のある面白いプロダクションだし、白い傘を使って建物のような構造を作ったり、ゴザみたいな幕を三枚吊して空間を分けるというパフォーマンススペースの作り方も良かった。オールバニの台詞が東京音頭にかき消されて全く聞こえなくなってしまうという終わり方も諷刺的で辛辣な要素があって面白かった(ひょっとして、オリンピックで野宿者が排除されることを暗示しているのだろうか)。ただ、ホームレスの人々の枠にリア王と浦島太郎ということで、ちょっといろいろ詰め込みすぎですっきり解決ができていない感じがするところもあった。もう少し整理してもいいかもしれないと思う。