嫉妬深い男の勘違いを描いた笑劇~『喜劇新オセロ』

 高円寺アトリエファンファーレで『喜劇新オセロ』を見てきた。これは益田太郎冠者が1906年に書いた『オセロー』の翻案で、初演は川上音ニ郎の一座によるものだったらしい。あまり上演されない芝居で、60分くらいの小品である。演出は西沢栄治で、キャストはAチームだった。

 

 オセローにあたる室鷲郎(森一弥)は、かなり年下の美しい鞆音(中島妙子)と結婚してから異常な嫉妬に悩まされるようになり、奇妙な行動を繰り返して妻や女中のお宮(本多由佳)を困らせていた。鷲郎は隣に住む作家の芳雄(大森寛人)の行動を拡大解釈し、妻に言い寄ろうとしているのではないかと思うが、それを信じた鞆音が芳雄にお断りの手紙を送ったせいで事態がややこしいことに…

 

 鷲郎や鞆音がシェイクスピアの『オセロー』を読んでいる(あるいは舞台で見ている)ことは劇中で示されているのだが、原著の人種問題とか悲劇的なところは一切なく、鷲郎が悲劇のオセローを気取るもののアホなことばかりしているという展開になる。明治のお金持ちの洋館のひと間を舞台にしており、小さい劇場のわりには美術もなかなか雰囲気があるし、笑いのツボをおさえた演出だった。役者陣もなかなか面白く、とくに鞆音(中島妙子)がけっこうちゃんと明治時代の若妻らしく見えるところが良かった。台詞はさすがに今の笑劇に比べるとかなり難しいのだが、それでもちゃんと台本として通用している。今見ると古いところもあるし、いくつか明治の人には笑えたのだろうが今ではそうでもないかな…というところもあるし、またあれだけ嫉妬深かった鷲郎が最後にちょっとしたきっかけだけで急に改心して平謝りになるところは少し強引に感じたのだが、それでも100年以上前の60分の笑劇としてはけっこうたいしたものだと思った。ちょっとジョルジュ・フェイドーとか、同じ時代のフランスの艶笑喜劇を思わせるところがある。