シェイクスピア大盛りパスティーシュ~『天保十二年のシェイクスピア』

 井上ひさし天保十二年のシェイクスピア』をシェイクスピアリアン仲間で見てきた。日生劇場だったのだが、めったにとれないようないい席だったのでちょっとびっくりした。舞台でこれを見るのは初めてである。

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 内容はシェイクスピア全作品の要素を盛り込んだ江戸が舞台のヤクザ抗争劇で、シェイクスピア以外にも『天保水滸伝』が入っていたり、歌舞伎っぽいところがあったり、ミュージカルっぽくなったり、とにかくごった煮の作品である。冒頭のほうは『リア王』なのだが『マクベス』、『ハムレット』、『ロミオとジュリエット』、『オセロー』、『間違いの喜劇』、『リチャード三世』などもけっこうしっかり盛り込まれておる(ちょっと台詞で言及するだけみたいな作品もある)。

 基本的に群像劇ではあるのだが、一番大きい役はたぶんリチャード三世にあたる佐渡の三世次(高橋一生)だろうと思う。これ以外だとハムレットにあたるきじるしの王次(浦井健治)とかもわりと大きい役なのだが、それでも途中退場で、最初から最後まで活躍できる登場人物はあまりいない(『ゲーム・オブ・スローンズ』みたいだな)。王次は一応ハムレットキャラなのだがえらい軽薄な御曹司で(親父さんが死んだばっかりなのに女性陣に色目を使っており、真面目ちゃんである原作のハムレットならあり得ない感じだ)、浦井健治だとこれくらいふざけた軽い感じのほうが似合うのかもと思った。このへんのもともとシェイクスピア悲劇に出てくる男性登場人物のほうはうまく翻案として面白く消化しているのだが、一方で女性陣のほうはかなり微妙で、出てきて死ぬだけみたいな感じだったり、ひどい扱いを受けて退場してしまうみたいな人も多く、そのへんは詰め込んだ台本の限界なのかなと思った。

 上演時間は4時間あるのだが、これでもけっこうカットしているらしい。パスティーシュでめちゃくちゃな話なので、筋が通ってないとかいうのはとくに気にするべきではないのだが、ただ、正直浮舟と佐吉のくだりもカットしていいのではないかと思った(これがないと欠落してしまうシェイクスピア要素って何だろう?だいたい他のプロットでカバーされていたように思うのだが…)。とはいえ古典を最大限に活用しており、かつエネルギッシュで笑いに満ちたはちゃめちゃな作品で、面白いことはたしかだ。できれば台本をちゃんと見て検討してみたいなと思った。