ちょっとダイジェストっぽい?~『薔薇王の葬列』

 日本青年館ホールで『薔薇王の葬列』を見てきた。菅野文の同名漫画・そのアニメ化を原作とする舞台で、おおもとの原作はシェイクスピアの『ヘンリー六世』三部作と『リチャード三世』(つまり薔薇戦争サイクル)である。漫画とアニメは未見である。

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 主人公であるヨーク家の末子リチャード(若月佑美)は両性具有者で、母親であるヨーク公爵夫人(藤岡沙也香)に悪魔の子どもだと疎まれていた。父であるヨーク公谷口賢志)はリチャードを可愛がっているが、薔薇戦争の紛争で亡くなってしまう。一方でリチャードは互いの身分を知らずに敵であるヘンリー六世(和田琢磨)と親しくなり、さらにヘンリー六世の息子であるエドワード王太子(廣野凌大)はリチャードを女性だと思って恋してしまう。

 

 シェイクスピア準拠とはいえかなり設定は変わっている。エドワード王太子と、ウォリック伯(瀬戸祐介)の娘でエドワードの妻になるアン(星波)の両方がリチャードに好意を抱いているとか、ヘンリー六世とリチャードが精神的な絆で結ばれるようになるとか、かなりメロドラマっぽい脚色が多い。また、ジャンヌ・ダルク佃井皆美)の亡霊…みたいな存在がリチャードにつきまとっている。リチャードはこの作品では両性具有であり、たぶんジャンヌもある意味では性別を超越しているところのある存在なので、そこがつながりになっているのだろうと思う。リチャードやヘンリー六世みたいな主役陣はもちろん、ヨーク公やマーガレット(田中良子)のようなベテランが大変上手で(この2人が対決するところはかなりの見せ場になっている)、楽しめる舞台ではある。

 ただ、原作を読んでいないのだが、それでもなんというかけっこうダイジェストみたな芝居だな…と思ってしまった。本来なら15話くらいかかりそうな壮大な歴史メロドラマを3時間でやっているみたいな印象の作品である(そもそも『ヘンリー六世』三部作をこのスパンでやるとまあダイジェストっぽくなるのはしかたないとは思うのだが)。たぶんそのせいだと思うのだが、リチャードの両性具有という点が単にネガティヴな感情のもとみたいに描かれていてあんまり掘り下げられていない…というか、たぶんこれって原作ではもっときちんとした葛藤とか不当な差別の描写があるのでは?という気がした。あと、序盤は軽薄で頼りなかったエドワード王太子がすぐに人間的に成長してしまっており、このへんも何かもっと描き込みがあるのでは…と思った。