真面目な歴史映画〜『マルクス・エンゲルス』

 岩波ホールで『マルクス・エンゲルス』を見てきた。『私はあなたのニグロではない』を監督したラウル・ペックの最新作である。

 NTライヴ『ヤング・マルクス』の予習だと思って見に行ったのだが、全体的にはかなり真面目な歴史映画だった。カール・マルクス(アウグスト・ディール)とフリードリヒ・エンゲルス(シュテファン・コナルスケ)の友情と、それに伴って2人がいかに革命の理論を洗練させていったかが描かれている。全体的に非常に知的な内容で、『私はあなたのニグロではない』同様、考えて発言するというプロセスを丁寧に追った作品だ。ドイツ語、英語、フランス語が飛び交う国際的な内容で、19世紀というのが非常にコスモポリタンな時代であり、貧困や労働者の権利がこの頃の西ヨーロッパ全域で強い関心をかき立てている国際的な問題だったということもわかる描き方になっている。

 カール・マルクスはものすごく才能があり、かなり付き合いにくい人として描かれていて、知性のほうはともかく性格のほうはあまり理想化されていないと思った。エンゲルスのほうについては、クラブで執事にすごむところとかは「あ、コイツやっぱりブルジョワの息子だわ」みたいなイヤな感じがすごく出ていて理想化されていないところもある一方、アイルランド系のメアリーと恋に落ちて一緒に暮らすようになるあたりの描き方は少々単純化されているように思った。ちなみにこの映画における恋愛とか男女の性の描き方は、知的な議論の撮り方に比べてあまりうまくない。みんなが政治についての議論をしているところや、組織乗っ取りを画策する場面なんかはけっこうワクワクして見られるのに、一方でカール・マルクスと妻イェニーのセックスシーンは「この場面、いるんですかねぇ…」みたいな陳腐な感じだったし、イェニーとメアリーが互いのパートナーについて話す会話は「イェニーの反応はそれでいいのか?!」みたいな感じだし(ベクデル・テストはパスしない)、ちょっとイマイチだったと思う。