演技などは良いのだが、暴力性のフェティッシュ化が…『永遠に僕のもの』

 『永遠に僕のもの』を見てきた。監督はルイス・オルテガで、製作にペドロ・アルモドバルがかかわっている。アルゼンチンで70年代に実在した有名な連続殺人犯の話をヒントに脚色したものである。

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 舞台は1971年のブエノスアイレス。十代のカルリートス(ロレンソ・フェロ)はどこにでもしのびこんでものを盗むのが得意で、全くそれを悪いとは思っていなかった。カルリートスは学校で出会ったラモン(チノ・ダリン)と親しくなるが、ラモンの父は少々あやしい商売をやっている男で、すぐに3人は盗難ビジネスを始めるようになる。この過程でカルリートスは盗みの邪魔になる連中を殺すようになり…

 

 歴史上の殺人犯であるカルロス・ロブレド・プッチは大変な美男で、そのせいでアルゼンチンでは「黒い天使」などと呼ばれて過熱報道が行われたそうなのだが、この作品の主人公であるカルリートスを演じるロレンソ・フェロもすごい美男である。元のタイトルはEl Angelなのだが、それこそ天使のようなくるくる巻き毛の愛らしい風貌だ。映画には、逮捕されたときにテレビでコメンテイターがカルリートスの幼げな美貌にびっくりして「ロンブローゾの骨相学から全く外れている」と困惑する場面があり、70年代でまだロンブローゾなのか…とちょっと笑えた。

 

 主演のフェロの何を考えているのかわかりそうでわからない大胆さを秘めた演技や、フェロが執着しているシャープな感じの色男ラモンを演じるチノ・ダリンなど脇役の演技などは達者で文句はないのだが、全体的にかなり暴力性のフェティッシュ化みたいなことが行われている点ではExtremely Wicked, Shockingly Evil and Vileに近いというか、むしろあれより悪いと思う。この映画におけるカルリートスは自分のセクシュアリティを表立って表現できていない若い同性愛者であるようで、ラモンに対して恋心に近い執着心を抱いているのだが、ラモンはビジネスがらみでお金持ちのゲイ男性と付き合いはじめてしまう。カルリートスの行動がエスカレートしていくにはそれがかかわっているようなのだが、どうも史実では犯人が同性愛者であったというような話は出てきていないらしい。さらに史実の犯罪については性犯罪なども入っていて、英語圏のニュースソースで読むかぎりでは映画よりもさらに凶悪かつ残虐なものだったようだ。それを同性愛のもつれみたいに脚色するのはちょっとナマモノBLみたいで、腐女子として個人的に受け付けられないところがある。さらに、殺害場面がわりとあっさりしているわりにカルリートスの美しさとカリスマ性はしつこいくらい丁寧に撮られているので、暴力行為ではなくちょっと抽象化された暴力性みたいなものがフェティッシュ化されており、そこも私はあまり好きになれなかった。