ドイツで迫害の対象となった同性愛者のオーラルヒストリーをとらえたドキュメンタリー~『ナチ刑法175条』(試写)

 『ナチ刑法175条』を試写で見た。2000年のドキュメンタリー映画で、何度か日本で特別上映されたことはあるが、劇場で正式に商業公開されるのは初めてだということである。

www.youtube.com

 刑法175条はドイツにおける男性間同性性交渉を規制する法律である。この法律に大きな影響を受けた6名の男性同性愛者と1名の女性同性愛者のオーラルヒストリーをとったドキュメンタリーだ。今から20年も前の映画とはいえ、迫害当事者はかなり高齢化しており、現在だとほぼ存命の方はいないのではないかと思われるので、貴重な歴史的記録である。

 第一次世界大戦後のドイツでは性科学研究所ができて同性愛の合法化を求める動きが起こったり、都市部でキャバレーやクラブが興隆したりして同性愛者に対する締め付けが緩んだのだが、ナチスが勢力を伸ばすと同性愛者に対する迫害がどんどんひどくなっていく。この映画では男性同性愛者がいかに暴力的な迫害を受け、収容所でも全く人権のない最下層の人間のように扱われたかが当事者の証言によって説明されている。中にはユダヤ人で同性愛者だった人もおり、常に怯えながら暮らさねばならなかった。被害者たちは、自身は全く悪くないはずなのに恥の感覚を抱えて当時のことを語りたがらなくなっていることもあり、証言の様子を見ているだけでかなり悲惨である。一方で今の感覚だとちょっとどうかと思うような、教員と生徒の間の性的関係などがあからさまに語られているところも興味深い(当時は出会いの機会がなかったのだろうし、そういうこともけっこうあったのだろう)。一方で女性同性愛者は主体性のない生む機械扱いされていたせいで法的迫害を受けることが少なく、別の意味で人間扱いされていなかったことも説明されている。

 大変重い内容のドキュメンタリー映画だが見る価値のある作品だ。おそらく『大いなる自由』や『エルドラド ナチスが憎んだ自由』と一緒に見るとよい映画だと思う。とくに『大いなる自由』では男性同性愛者がナチスの時代を生きのびた後も収監され続けたことが描かれているが、この映画はそれについても少し触れており、たぶんまとめて見ることでドイツにおける同性愛の歴史を考えることができる。