スタントン(10)精神病院に残された患者のスーツケースを主題とするミュージカル、The Willard Suitcases

 ブラックフライアーズ劇場で新作ミュージカルThe Willard Suitcasesを見てきた。これは1995年、ニューヨーク州のウィラード精神病院の屋根裏から、かつての患者のものと思われる大量のスーツケースが見つかったことをもとにした作品である。

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 スーツケースがたくさん詰まれた舞台で役者たちがそれぞれの荷物の持ち主に扮して歌で人生模様を説明するという内容だ。実際に舞台上で役者が楽器を演奏して歌うというもので、役者は全員、他の作品にも出演していることを考えるとかなりの負担だと思う。さらに、大量のスーツケースが詰まれたセットの中で、それぞれの役のスーツケースはどこにあり、出したら何が出てくるとかいうことを覚えておかないといけないので、けっこう複雑な作品だ。そのへんを役者陣はみんなそつなくこなしており、それぞれの患者の歌も哀切なものからブラックなものまでいろいろあって興味深くはある…のだが、一貫したストーリーがあるわけではなく、次から次へと個人史が移り変わるので、ちょっと淡々としすぎている気はした。ただ、精神医療の歴史に興味がある人とかならもっとずっと面白く見られるのかもと思う。