スタントン(11)初めて劇場で「こんな白人ばかりのところで芝居を見たくない」と思った~Keene

 学会終了前日の夜、ブラックフライアーズ劇場でAnchuli Felicia Kingの新作Keeneのリーディング公演を見てきた。これは学会主催であるアメリカン・シェイクスピア・センターが行っているShakespreare's New Contemporariesという賞をとったものである。

 3日間のシェイクスピア学会を舞台にした諷刺劇で、主人公は唯一アフリカ系アメリカ人であり、アイラ・オルドリッジについて博論を書いているタイラーと、ほとんど英語が話せない日本人の女性音楽学者カイである。基本的には白人ばかりのシェイクスピア界を諷刺したものだ。

 …で、この作品なのだが、生まれて初めて舞台の劇場で「こんな白人ばかりのところで芝居を見たくない…」と思った。観客はだいたい白人で、アフリカ系とラティンクスが少々、アジア系はほんの数人で、日本人はたぶん私ひとりだった。学会パートナーのメアリー・ボールドウィン大学には日本からの留学生も数名いるのだが、この時はあまり学生はいなかったように思う。日系アメリカ人はたぶんいた。

 このカイというキャラクターは学会に参加している唯一の日本人女性ということで、つまり今回のブラックフライアーズ学会に出ている私と同じ存在である(日本人の発表者はひとりだけだった)。このカイ(そもそも女性名でカイってあまりないと思うのだが)、京都で研究をしているという設定なのだが、全く英語が話せず、学会に参加するまで黒人の人に一度も会ったことがない。劇作家は白人ばかりのシェイクスピア界を笑うつもりで書いているので、カイじたいは悪気を持って書かれたキャラクターではないのだが、絶望的にステレオタイプ的だ。日本人は英語が話せない、日本は均質な国で日本人しか住んでいない、日本女性は大人しい、という固定観念に添った人物になっていて、初めて会った黒人男性であるタイラーに一目惚れするとかいうのもナイーヴすぎる。白人ばかりの観客が笑いながら見ている中で、自分の戯画化みたいな人物を見るのはかなりつらかった。

 実際には日本女性は別に大人しくないし、今国際学会で発表しているような日本の研究者は訛りはあってもそこそこ英語が話せるし、日本の大きい町に住んで大学院まで行っているような人ならひとりかふたりくらいは黒人の方にも会ったことある(私はド田舎出身だが、中学の時にケニア出身のアスリートたちが町に合宿に来て交流事業で会った)。劇作家に悪気はないのだろうが、いまどきこんなステレオタイプな日本人女性学者を出すのはとてもうまい台本とは言えない。そういうわけでハッシュタグでこういうツイートをした。

 これには劇場関係者や、同じ学会に参加していたアジア系の研究者も反応してくれたので良かった。本公演までにもっと台本が良くなっていることを望みたい。