ブスネタ以外はほぼ完璧な翻案~『泣くロミオと怒るジュリエット』(ネタバレ)

 鄭義信作・演出『泣くロミオと怒るジュリエット』を見てきた。『ロミオとジュリエット』(+『ウェストサイド物語』)のオールメール翻案だが、場所はどこか日本の関西っぽい場所、時代はいつかの戦争の後である。地名や人名はそのままなのだが、明らかに日本の植民地支配などをテーマにしている。

 ヒロインであるジュリエット(柄本時生)は田舎からヴェローナに出てきたのだが、どうやら田舎で男に貢いで失敗し、人生を一新するために兄であるティボルト(高橋努)とソフィア(八嶋智人、原作の乳母に相当)の夫婦が住んでいる街に引っ越してきたらしい。ヴェローナの街はキャピュレットとモンタギューの愚連隊の対立で荒れており、戦争から負傷して帰ってきたティボルトはキャピュレットのリーダー格だった。元モンタギューで今は屋台をやっている吃音症のロミオ(桐山照史)はダンスホールで出会ったジュリエットに一目惚れするが…

 

 『ロミオとジュリエット』や『ウェストサイド物語』をものすごくしっかり消化し、シェイクスピアの台詞のいいところを残して独自のものに作り変えており、全くシェイクスピア翻案のお手本のような作品である。戦後の日本を思わせるバラックが建ち並ぶセットの美術もいいし、役者陣の演技も申し分ない。ロミオたちモンタギューは「三国人」と呼ばれており、モンタギューとキャピュレットの対立には、明らかに日本がかつて植民地支配していた地域の人々に対する民族差別が織り込まれている。最後は関東大震災直後の朝鮮人が井戸に毒を入れたとかいうデマに端を発する暴動・虐殺にヒントを得た展開があり、ロミオとジュリエットの葬儀そっちのけで人々が殺し合う陰惨な現実と、あの世で結ばれる2人の若者の純粋な愛が対置される。若者の死によっていくらか大人たちが反省する原作の『ロミオとジュリエット』よりもはるかに希望がなく、救いが無いが現実的な終わり方になっている。また、ロミオに手紙が届かない経緯を、ベンヴォーリオがロミオに対して抱いているほのかな恋心のせいにするという理由付けも良かったと思う。

 

 ただ、ひとつちょっと困ったなと思ったのは、このプロダクションでは男優が女装したら不細工扱いということになっており、こういうのはいい加減寒いからやめたほうがいいということだ。カクシンハン『薔薇戦争』でも思ったのだが、ブスネタで笑いをとるっていうのははっきり言って面白くない。しょっぱなから柄本時生が女役なのをブス扱いするジョークらしいものがあるのだが、別に男性が女装してもそれ自体に可笑しいところはないし、さらに柄本時生のジュリエットは別に可愛い。