やさしく、あたたかい『ミッドサマー』~『野性の呼び声』(ネタバレあり)

 『野性の呼び声』を見てきた。ジャック・ロンドンの『野性の呼び声』の映画化である。

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 主人公であるイヌのバックはミラー判事の家で飼われていたが、大きく立派な体形ゆえに泥棒に目をつけられ、誘拐されてそり犬として売られてしまう。砂金掘りに沸くユーコンへと売られたバックは郵便そり犬となるが、郵便配達職員であるペロー(オマール・シー)とフランソワーズ(キャラ・ジー)は比較的よい主人でうまくやっていくこともでき、そり犬としての技術をすぐに身につける。やがてそり犬リーダーのスピッツとの抗争でも勝利をおさめ、先導犬として活躍するのだが、郵便そりの廃止により売られることになる。バックはろくでもない男ハル(ダン・スティーヴンズ)に売られてしまうが、危険な旅で命を落としそうになる寸前に、以前から知っていたジョン・ソーントン(ハリソン・フォード)に助けられ、ジョンと親しくなって探検の旅に出ることになる。探検先でジョンとバックは楽しく暮らしていたが、やがてバックは地元の森林オオカミたちと出会い、野生に目覚めていく。

 ものすごくたくさんCGを使っており、バックはドックアクターではなくCGを用いているし、風景などもCGである。そのため、質感がちょっとアニメみたいで、たまに「これはやりすぎでは」というような大仰な動きがあるのはいただけない。ただ、バックの動きや表情はかなりイヌっぽく、またバックがとる擬人化された行動もけっこう、イヌにありがちな行動をデフォルメしたものになっているので、そんなにイヤな感じはしない。たとえばバックが酒ばかり飲んでいるジョンの酒瓶をとりあげて隠したりするのだが、そんなんイヌがやるわけないだろ…というのは早計で、実はイヌはけっこう主人が自分にかまってくれなくなると、主人が関心を持っているものを隠したり、壊したりすることがある。イヌにとっては主人が元気に自分と遊んでくれるのが最も正しく健康な状態で、それを妨害するものは悪いものだ。バックが賢いイヌなのであれば、ジョンが自分にかまわず酒を飲んでいる時に、邪魔者だと思って酒瓶を狙う発想が出てくるのはそんなにおかしくなく、デフォルメはされているがあれはわりとイヌっぽい行動の誇張だと思う。

 

 そしてこの作品、実は裏『ミッドサマー』…というか、『ミッドサマー』をやさしく、あたたかく、ご家族向けにしたみたいな作品だと思う。というのも、どちらの作品も、今住んでいる社会にうまく適応できていない主人公が、意に沿わない形でよりワイルドな環境に連れて行かれ、そこに適応するようになり、大事な人を失うことで新しい野生の国の王になるという物語だからだ。ミラー判事の家でものを壊しまくっていたバックはユーコンの森で幸せになったが、そのためには親友であるジョンの死と経験しなければならなかった。原作に比べるとだいぶおじちゃまとイヌのブロマンスみたいなやさしい話になってはいるのだが、一方で『ミッドサマー』と共通するテーマを扱っていると思う。最近こういう話が流行っているような気もする。